自殺者減少の背景を検証する

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1890902275&owner_id=12631570

マイミクさんのコメントで、自殺者が3万人を割り込んだのが麻生さんのお陰だと(一部で)叫ばれていることを知った。

いわく、
「麻生首相の時代に地域自殺対策緊急強化基金を作り100億円のお金をかけてやってきた事業の成果」
なんだそうで。

民主党がやったことは基金の積み増しと事業の継続でしかないと。

自殺者15年ぶり3万人切る可能性 麻生政権の100億事業効果か
http://www.news-postseven.com/archives/20121101_152124.html

いくら自民党をひいきしたいからって、何でも言えばいいというものではないと思う。

この問題には自分も少しは関わっていて、何度か日記も書いているので、その立場からすこし書いてみたい。

麻生首相の時代に地域自殺対策緊急強化基金を作ったのは本当だ。3年間で100億円のお金を基金にする計画(1年当たり33億円)で、予算をつけたのも本当だ。
しかし、その一方で自公政府は、同じ年度の予算案で、あらかじめ一般予算の自殺対策予算を21億円も削減しているのだ。
*http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/yosan/h20-yosan.pdf

予算総額は前年度とほとんど変わらない。変わったのは予算の付け方と名前だけ。「うどん定食(うどん+ごはん)に、新たにそばもつけることにします!ただしうどんはなくしました」というのと同じだ。こういうのを「誇るべき麻生政権の成果」だと本気で言う?

さて、自殺対策に民主党が独自の成果をあげていないというのが本当か、経緯を振り返ってみよう。

自殺問題で大きな力を発揮したのは「自殺対策支援センター ライフリンク」で、2002年ころから活動している。

私たちは多重債務問題をつうじて、別の方向から、少し遅れて取り組みを始めたが、ライフリンクの活動にはいつも敬意をはらっていた。(私たちは「自死」という言葉を使った)

2005年、ライフリンクが自殺対策法の制定を求める署名活動をはじめ、翌年、10万人以上の署名を国会に提出した。これには私たちも協力した。

2006年、そういう働きかけが効を奏して、超党派で「自殺対策を考える議員有志の会」がつくられ、「自殺対策基本法」が議員立法により成立した。

2007年、法律に基づいて、240億円の自殺対策予算が計上された。これが国としての、本格的取り組みの始まりだ。

その効果が上がったのか、2008年の自殺者はやや減少した。これはもちろん自民党政権の時だから、民主党だけの手柄ではない。

そしていよいよ2008年、麻生内閣のときに、先に述べた「地域自殺対策緊急強化基金」がつくられ、1年当たり33億円が計上されることになったのだ。

ところが同じ年度の予算案で、これまでの自殺対策予算の枠が21億円削減されたことも、すでに書いた。しかもだ。これ、年度使い切りではなく持ち越しのできる基金であるため、まるで事業が進まなかった。

自殺対策をしろと予算が降りてきたはよいが、地方で何をすればよいのかさっぱり分からず、首をかしげるばかりだったのだ。

降りてきた予算で国債を買ったりという事態にまでなってしまった。
↓一例
*http://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/life/1047884_1092949_misc.xls

この基金、予算執行で一番大きいのが「ライフリンク」への補助金支出などという状態が実態だったのだ。それ自体は悪い使い方ではないけれど、莫大な運営資金が流れ込んだライフリンクが麻生さんをほめるのは当然なので、彼らの評価だけですべて分かった気になるのは一知半解というものだ。

さて国は金を出したら責任を果たしたかのように、こういった問題点が放置され続けた。

問題が指摘されて改められるには、2010年を待たねばならなかったのである。

こればかりが原因でもなかろうが、2009年の自殺者は、また増加してしまう。

これが解消したのが、2010年の湯浅誠の内閣参与就任によってであった。

湯浅誠-菅直人コンビで「社会的包摂」をキーワードに、全国ワンストップ事業が提案され、厚労省の指導で地方自治体に具体的な事業指示がおろされたのだ。

参考資料
「一人ひとりを包摂する社会」の構築に向けた課題
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/housetusyakai/dai1/siryou2.pdf

ようやく予算に血が通い、それ以後、自殺者が目に見えて減っていることは、周知の通りだ。民主党だけの手柄ではないけれど、民主党、なかでも鳩山さん、菅さんでなければ湯浅誠を登用しなかったし、NPOの経験を厚労省が取り入れることもなかったのも、確かではなかろうか。

ちなみに、代表質問で自殺問題を取り上げたのは鳩山さんが初めてのはずで、ライフリンク結成より以前のことだった。

財界や学者ではなく、現場で動いている市民団体の代表を招いて、議員学習会が開かれるようになったのも、民主党の働きかけが大きい。各種委員会では、理論武装した野党の声が無視できなくなった。

こういった流れで、超党派議員有志の会が結成されたのだが、これも、民主党が主導した。だから共産党や社民党にも分け隔てなく声がかかった。

いま改めて思うが、自由党と合流する前の民主党、合流してからも小沢さんがでかい顔をする前の民主党は、なかなか頼もしい存在だったのだよなあ。