タモさんのトホホな講演 デバッグ7(軍事バランス論)

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1653798821&owner_id=12631570

田母神俊雄氏が2010年11月21日に行った講演の内容を13項目に整理し、その間違いを「タモさんのトホホな講演 デバッグ」の通しタイトルで9回に分けて指摘する。

講演全体のまとめ

2010年11月21日午後2時より、姫路市民会館大ホールに於いて「田母神俊雄講演会(姫路市・姫路市教育委員会後援……トホホ)」が開催されました。 東進衛星予備校専用の受付口が設けられるなど組織動員の成果もあり、参加者は約900名。立ち見も出る盛況...

9回の目次

■元航空自衛隊幕僚長 田母神俊雄講演会 参加メモ ■タモさんのトホホな講演 デバッグ1(歴史認識) 1.自己紹介 2.歴史認識の誤りが国を危うくしている ■タモさんのトホホな講演 デバッグ2(侵略戦争...

9.軍事バランス論

<田母神講演の要約>
外交は軍事力の裏付けがあって、はじめて成り立つんです。こちらの話を聞けと言うためには、戦争の覚悟がいる。交渉で決着が付かないなら戦争するぞという覚悟をしている国と、初めから絶対に戦争はしないと決めている国が交渉をすれば、戦争を覚悟している方が絶対に勝ちます。「こちらの話を聞かないなら、ぶん殴るぞ」ということで、ようやく対等の話し合いが出来るんです。

ところが日本政府は、「こちらの話を聞かないなら……話し合うぞ」と言うんです。これではダメです。軍事力に対抗するには軍事力のバランスが必要ですから、中国が軍拡を続けるならば、それに応じてこちらも軍拡をしなければなりません。

戦争はまず起こらない

対日戦争できる戦力なんか中国にありません。この点については、田母神さんはちゃんと分かっています。中国軍はまだまだ幼稚で自衛隊の敵ではないと語っていますから。すると田母神さんの主張を演繹すれば、圧倒的に日米有利に軍事バランスが偏っていることになります。バランスが大切だというなら、いま必要なのは日米の軍縮であって軍拡ではないはずです。

日米に追いつくための中国の軍拡に対抗して日本が先行するために軍拡をすれば、相手はさらにこちらに合わせますから、お互いに際限のない軍拡競争に突入することになってしまいます。お互いがまともに対応していれば起こらない戦争なのに、何かの拍子に戦争に至ってしまう要因のひとつは、タモさんのような人がいるからではないでしょうか。“国際環境に合わせた軍事バランス論”の危うさがここにあります。

中国に侵略意図はあるのか

尖閣諸島や韓国西海における中国漁船の漁場紛争をネタに、中国の侵略的意図を懸念している論者がかなりいて、田母神さんもその一人です。

中国が尖閣諸島を取るために戦争を起こすなどと言う想定は絵空事です。中国はいま国内問題で手一杯です。経済成長を続けるためには、戦争なんかやっていられません。

尖閣諸島の漁船問題は、大本の原因は、中国国内の漁業問題です。爆発的に増大する国内消費をまかないたくとも沿岸漁場の乱獲や汚染により漁獲高が頭打ちになっており、遠洋漁業に活路を見いだすしかないという現状が引き金となっているのです。

ですから軍事バランスを取ればどうにかなる問題でもありません。けんか腰で対抗するよりも、中国と友好関係を維持・発展させれば、日本の企業が環境技術を輸出したり、汚染除去事業を請け負ったり、養殖技術を移植したり、あるいは養殖産業を起こすビジネスチャンスが作れるわけです。

軍備は金食い虫ですが、平和的な方法は安全保障に寄与するうえ、儲かるのです。どちらがよいか、考えるまでもないことでしょう。

中国が空母をつくりたい理由

中国は2003年に世界で2番目の石油消費国になり、2008年には日本を上回り、世界で2番目の原油輸入国となりました。昨年はサウジアラビアからの輸入が米国を抜いて1位になっています。中国の一次エネルギー消費の中では石炭が70%強を占めており、石油の比率は20%未満、原油の輸入依存度は約50%なのに、このような状況です。

今後の経済発展と環境負荷低減の両方からの要請で、石油、天然ガスのウエイトが確実に上昇すると見られているので、今後はますます石油と天然ガスの大幅な輸入の増加が避けられない模様です。中国としては石油輸送に伴う安全保障リスクが大きな課題なのです。

航海の安全を守るために、経済規模に合わせて海上戦力を整えようとすれば、急いで飛躍的に軍拡しなければならないと考えているでしょう。空母建設の動機は中国にとって切実なものであり、侵略的性質など有していないと中国は説明するはずです。

が、周辺諸国にとっては、スプラトリー諸島などにおいてこれまで中国のとってきた行動に鑑みて、その戦力増強は恐るべき脅威と映っています。

現実的な安全保障政策がほしい

このような不信の連鎖を解きほぐすのは容易なことではないし、一朝一夕に平和的な国際環境を作ることはできません。「外交は軍事力の裏付けがあってはじめて成り立つ」という指摘は(残念ながら)現実としてそのとおりです。

しかし軍事バランス論はしょせん軍事論でしかなく、軍事力という節穴から世界を見ているので、必ず視野狭窄に陥ります。中国が空母を建設すると言えば、直ちに日本も空母を持てと唱えるのは、実に愚かしいことです。自衛隊が中国の沿海へ出て行って戦争するのでない限り、空母なんかいりません。

好戦的でない安全保障政策というのは可能だと思います。問題は、平和を志向する国民や政治家は軍事問題に触れることをも忌避するため、現実的な安全保障プランが作れないこと、他方で好戦的な国民や政治家はただ好戦的なだけなので、やはりまともな話ができないという現実にあるように思います。