軍隊を捨てた国 コスタリカの話

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コスタリカは憲法によって常備軍を廃止しました。それによって、財源を経済活動や教育に投資することが可能となり、大きな成功を収めていると言われています。軍隊をなくしたことで他の南米諸国の悩みの種であるクーデターもなくなりました。

たしかにコスタリカは他の中南米諸国に較べれば、平和国家と言えるでしょう。日本では多くの人がコスタリカを理想国家のように言い、讃えています。

しかしそれは一面的な見方だと思います。現実のコスタリカと理想化されたコスタリカはずいぶん違っています。あまりに一方的な情報を信じてあとからガッカリしないために、コスタリカの正確な姿を知っておいた方がいいと思います。

■コスタリカは軍隊を捨てたか

コスタリカには公安警察があり、その中に4,400人の特殊部隊が存在しています。名称は市民警備隊ですけど、対戦車ミサイル(ていうのがどんなものか知らないんですが)など重火器を装備しているそうで、しかも米国で訓練を受けているというから本格的な特殊部隊です。

また他に国境警備隊があり、沿岸警備隊もあります。小銃や機関銃を装備している部隊は全部で8,400人です。(*1)

国境警備隊は国際的には警察力の扱いを受けますが、コスタリカの部隊は強力なので「ミリタリー・バランス」では準軍事組織として扱われています。実際、これは軍隊だと思います。なぜならまず任務の中に「国の主権を守る」ことが明記されているので、軍隊の機能を持っているのです。(*2)

つぎに非常事態の際は国会議員の3分の2の賛成投票により、徴兵制の実施及び軍隊の編成の権限が大統領に与えられていますが、徴兵した青年を兵士として訓練し指揮するには、核となる軍事組織が不可欠だからです。

■コスタリカの軍事力評価

これを日本と比較してみましょう。

コスタリカの人口は約400万人です。8,400人の軍隊は人口の0.21%に当たります。日本に当てはめれば、25万2,000人になります。海空を合わせた自衛隊の規模は約24万人です。陸上自衛隊の現員が14万8,000人で、これからさらに減員して12万人体制にすることが決まっています。人員規模としては相似形というところでしょうか。

治安対策予算は113億ドルで、GDP比で0.76%。これは中米では第3位に位置するそうです。日本の防衛費はGDP比で0.92%です。日本のGDP比が高いのは装備費が高いからで、コスタリカの装備は自衛隊より貧弱ですが、これは周りの国も大した軍隊を持っていないのでそれでいいのです。日本の周囲には急速に軍備を拡大しているロシア、中国という軍事大国がいますから、コスタリカと単純な比較はできません。

■理想にはまだ遠いコスタリカ社会

白人が人口の80%を占めているのでほとんど表面化しませんが、先住民や黒人に対する差別は相当にひどいそうです。

6年前の数字ですが、貧困ライン以下の家庭は、18%、日常の生活必需品に事欠く絶対的貧困ライン以下の家庭は、7.5%もありました。もっとも、この程度の貧困率はラテンアメリカの中では優秀な部類に属します。もともと植民地だったので出発点がひどすぎたのです。いまコスタリカ政府がこれの克服に大いに努力していますから、今後はもっと改善されることと思います。

■日本とコスタリカの類似と相違

ざっと見ただけでの安直な結論は避けたいと思いますが、ある程度のことは言えるのではないでしょうか。

コスタリカは軍事力だけに頼らない安全保障と、社会保障政策の拡大、米国からの自立、この3つを国家方針にして、厳しい財政の中で頑張っています。

日本はこれまで低軍備と社会保障という面でコスタリカと共通していました。中国やロシアや韓国が軍備拡大を続ける中で、現在は日本ひとりが軍縮路線を継続しています。防衛予算を毎年減額しており、人員も削減し続けています。周辺国が追随してくれないのが辛いところですが、まあ、日本が不安定の要因になる愚だけは避けてきたと思います。

資源がなく、貿易に依存しなければ国が存立しえない日本にとって、国際環境の平和こそが反映の基礎であるという認識は、一部の国家主義右翼を除いて自民党の中にも浸透しているようです。

しかしその傾向が昨今危うくなっています。安全保障を軍事力に頼る傾向が強くなって自衛隊の海外派遣を恒常化させようとしているし、社会保障は後退する一方だし、米国には相変わらずというより、これまで以上にますます従属を深めています。

これまではコスタリカとある程度共通する国家方針でしたけれど、これからはどうやら違う路線に進んでいきそうなのです。

■私たちはコスタリカに何を学ぶべきなのか

コスタリカと日本、どちらの進路選択がより現実的であり、より国民の幸福に寄与するのでしょうか。

米国の経済不安のあおりで、中南米諸国の経済はこれまでのような成長が厳しいとされていますが、しかし1980年代のような劇的な破局のきざしは見られません。独自の金融・経済圏の構築に成功したのと、内需が安定しているので米国経済の波にこれまでのように翻弄されなくなったのだそうです。いまのところ、コスタリカは国内が安定しているし、南米諸国の民主的変革に後押しされて、国民は自国の路線に自信を深めているようです。

逆に日本はご存知のとおりで、混迷を深めているように見えます。今後、米国がどのように変化していくかは分かりません。どのように変わろうと、米国が咳をしたら日本が風邪をひくというようなあり方が健全だとは思えません。コスタリカの自立路線、しかも低軍備で緊張緩和政策を重要な安全保障戦略の柱に据えるといった面について、日本は大いに学ぶべきなのではないでしょうか。

*1
日本共産党 中央区議会議員 志村たかよしワールド
コスタリカの警察はミサイルを持っている
《「軍隊のない国」コスタリカ訪問記 連載14》
http://blogs.yahoo.co.jp/shimuratakayoshi/17222653.html

より詳細には↓
「最近のコスタリカ評価についての若干の問題」
『アジア・アフリカ研究』2002年第2号 アジア・アフリカ研究所刊
*http://www1.ocn.ne.jp/~mourima/sindou.html

*2:参議院憲法調査会との会談
*http://www.sangiin.go.jp/japanese/kenpou/ccu/ccu_chosa02.htm

(5) 公安警察

活動状況 公安警察は主権を守ること及び国民を保護することの二つの役割を担っている。戦車や戦闘機はもちろん、軍に相当するような武器は一切なく、国境警備や森林パトロールにおいて麻薬の密輸等を防ぐため、自動小銃やヘリコプターを備えている程度である。公安警察としても再軍備の意思は全くない。ニカラグアからの不法入国者の増大について、侵略ではなく経済的理由からと見ている。ただ、治安の悪化は我々が直面している課題である。

<追記>

コスタリカと言えば「軍隊を捨てた国」と言って、日本の憲法第9条を実現しているかにいう人がいます。そんな絵に描いたような理想国家があるはずないんで、根拠のないことを言ったり書いては右翼に突っ込まれている人が多いんですよ。