改憲論の根拠を検証する(2)戦略面から見た「ソ連脅威論」の悪質さ

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■違法な海峡封鎖

さて日米軍事当局はどのようにソ連の北海道侵攻を予想していたのか。太平洋はアメリカの庭だ。何人であれ、許しなく航行することをアメリカは拒否する。それが超大国アメリカのメンツである。

しかし世界のどこであれ、公海上を軍艦が通行するのは国際法で定められている権利である。海峡を封鎖するのは国際法違反であり、ソ連にとっては日本の敵対行為である。もしも海峡封鎖に武力を用いれば、ソ連に対する戦争行為となる。ソ連は海峡の無害通航権という国際法上の正当な権利を守って自国船舶の安全を確保するため、その妨害を排除する権利をもつ。つまり日本の戦争行為に対して「防衛戦争」で応じる権利があるのである。

宗谷海峡を安全に通航するには海峡の制空権を確保しなければならず、また陸地からの攻撃を防ぐには日本の攻撃部隊を排除してそこを占領しなければならない。そこでソ連軍は空挺作戦や小規模上陸作戦で北海道北岸部に地上部隊を進出させる可能性がある。これが「ソ連軍の北海道侵攻」のシナリオだった。だがあくまでも局地的な侵攻にとどまる。その後、ソ連軍は拠点防御に移るだろう。全面侵攻の能力を、ソ連軍は持っていない。これが米軍と自衛隊の見方だった。

しかしメディアの報道は違った。戦略的分析も動機の追究もなおざりにして、ソ連軍が理由もなく北海道、さらには本州中心部に全面侵攻する意図を持っているかのように書き立てた。時の中曽根首相は日本を浮沈空母にしてソ連に対抗すると息巻いた。信じやすく批判力のない国民をだますには、単に「共産主義の侵略」といえば、それで事足りたのだ。

だが考えてみよう。ソ連海軍の戦略目的はアメリカへの対抗措置だ。宗谷海峡は通過点にすぎない。ソ連にはそこを通る権利があり、邪魔する権利は日本になく、邪魔しなければ日本にとって無害である。ソ連海軍はもともと日本近海にいて、自由に動いていた。軍事的に言えば、日本は常にその重圧下にあった。だから、彼らが太平洋に出ていくことで日本に対する脅威が増すかといえば、さほどのことはない。

ソ連海軍の進出に戦略的脅威を感じたり体面をつぶされると思うのは、専ら米国の問題だった。海峡封鎖はどう考えても日本に不必要で、何のメリットもない行為だ。要するに中曽根は米国のメンツを守るために日本を盾として、国民を危険にさらす決意をしたのである。(この信じがたい売国行為のおかげで、中曽根は大勲位を授けられた。)

その頃の自衛隊は、米国本土を守る盾となって、強大な極東ソ連軍と戦う訓練をしていたのである。なんと無謀で、かつ愚かな政治的・軍事的決断だったろう。

3海峡封鎖戦略は、実質的な攻守同盟の宣言だった。これは憲法の制約を突破する、重大な政治的決断だった。だからこそ、これを合理化するために、過剰なソ連脅威論が目くらましとして喧伝されたのである。

いま、「過剰」と書いた。なぜ過剰と言えるのか、それを明日の日記に書く。