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いまや世界各地に派遣される自衛隊。その任務の大半は、自衛隊でなくてもできることばかりです。道路工事なんか専門業者の方がよほど安く、早く、上手にできる。
イラク・ムサンナ州議会で農業員会委員長のアフマド・サラール議員は「ほとんどの自衛隊の道路改修工事などは失敗だったために、国や州がやり直さねばならなかった」と手厳しい。
*http://middleeast.asahi.com/report/2013032000004.html
高くて遅くて下手くそな自衛隊を送るのは、早い話が中国あたりに自衛隊の投射能力を見せつけているのだと思います。投射能力とは遠隔地に軍隊を送り込む能力です。
送り出したら、政治家はあとのことは知らん顔です。ヨーロッパに外遊に行く先生はたくさんいますが、ちょっと足を伸ばせば行けるゴラン高原に出向いて自衛隊を激励したなんていう議員はほとんどいません。自衛隊は政治の道具なんです。
先日の「自衛隊を活かす会」でそう発言したら、元カンボジアPKOの初代隊長さんが「現役時代に、そういう感想を持ちました」と正直に語っておられた。そのあと、「でも違うと思います」と続けたのは、まあ立場上そういうしかなかったのだと思います。
自衛隊は命令されれば従うしかない立場なので、イラク派遣なんか完全に憲法違反ですが、行けと言われれば嫌とは言えない。しかし戦場でも、やはり憲法第9条の下にある部隊なので、外国の軍隊とは違います。あの危険なイラクで、ただの一度も戦闘しなかったただ一つの部隊です。
自衛隊が駐屯したサマワにはオランダ軍も派遣されていたのですが、その受け持ち区域では戦闘が発生して、オランダ軍に戦死者が出ています。自衛隊も駐屯地付近に何度か迫撃砲が撃ち込まれた事件がありましたが、その時に怒ったのが地元の人々だったそうです。族長が「日本に手を出すやつは部族の敵だ」と声明を出し、自衛隊支援デモが起きた。武装勢力も攻撃は民心を得られないと覚ったのか、ある時期から攻撃がピタリと止んでいます。撤収するさいに、「撤収反対」「帰らないでくれ」というデモが起きた、ただ1つの部隊でもあります。
自衛隊の区域の治安があまりにも安定しており、現地住民との関係が良好なので、ノウハウを学びに米軍や英軍が視察に来たそうです。
どうしてこうなのか。
自衛隊は派遣にあたって隊員に「我々は戦いに行くのではない、民生復興のために行くのだ」と、いわば「平和教育」を授けました。こんな部隊は世界にただ一つだったと思います。多くの方はお気づきでないと思いますが、派遣隊員の迷彩服が砂漠用ではありません。現地の人々に、戦う意思がないことを示したのです。そういう点にまで気を使っていたのが自衛隊です。
自衛隊の任務は給水活動と、その他には小規模な土木建築工事でした。給水活動についてはほとんど効果がないとか、駐屯地にこもりっきりだとか、当時は散々にたたかれました。でもそれは当たり前です。自衛隊はそもそも部隊のために浄水する能力しかないのです。サマワという大きな街の住民に給水する装備なんか持っていない。もとからできないことをやれと政府は命令したのです。人を差し出す、それだけが目的の政治派遣だったからです。それでもやれと言われたらできることを最大限にやるしかないのが自衛隊なのです。
派遣部隊は、治安部隊ではないことを深く自覚していました。だから街に出た時でも、住民に銃を向けたことは一度もない。給水活動もイラク人と一緒にやりました。タンクローリーに現地の人を平気で上がらせています。配るのは、自衛隊が教育したサマワ市民ドライバーです。毒でも入れられたらどうするのだ、爆弾を投げ込まれたら……。他国の軍ならそういう心配がまず先に立つのでしょうが、自衛隊は現地の人をリスペクトすることから始めました。憲法第9条の下の自衛隊にとって、サマワの人々は撃ち殺す相手ではないからです。
撤収が近づいた頃、現地部隊から日本の駐屯地にある呼びかけがありました。余っている鯉のぼりを送って欲しいというものでした。イラクで鯉のぼりをあげようというのです。偶像崇拝が禁じられているイラクですから、派遣部隊が現地の族長や議会に、鯉のぼりの説明をしました。
日本にはこどもの日というものがある。子どもが元気にすくすくと育ってほしいと願う特別な日だ。
この日に、鯉という魚ののぼりをあげるのだ。滝でものぼってしまう強い鯉のように、元気に育ってほしいという願いを表す風習だ。子どもはその国の将来そのものであり、イラクの子どもが明るい未来を築いてくれることを願って、その風習を再現させて欲しい、と。
5月5日、ユーフラテス川に鯉のぼりが泳ぎました。
生まれてこの方、戦争しか知らないイラクの子どもたちです。平和だった日々を知る親たちは、あらためて子どもたちのふびんさを想い、愛情を確認し、平和を願う心を抱いたのではないでしょうか。自衛隊帰らないでくれというデモが起きたのは、その翌日のことでした。こんなことを発想する軍隊なんか、世界にただひとつ、平和憲法に規律されている自衛隊だからこそではないでしょうか。
自衛隊は、その外形からいえば、いまや完全な軍隊です。手放しで賛美するわけにはいきません。しかし憲法第9条がしばりをかけている限り、本物の軍隊になりきれないのも事実です。
軍隊でない軍隊、防衛にのみ使える軍隊、侵略には使えない軍隊。
そういう自衛隊であることに、私は誇りを覚えます。