防衛省が「ミサイル」総括

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防衛省は15日、「北朝鮮によるミサイル発射について」と題する文書(以下「発表文」と呼称)を発表しました。
*http://www.mod.go.jp/j/library/bmd/20090515.html
(本稿末尾に転載)

これについて感想を述べたいと思います。

1.防衛省は「ミサイル認定」に反対?

意外ですが防衛省は積極的にミサイルだと断定していません。「政府がミサイルと呼称するからそういう」と書いています。そして本文の主な箇所ではカッコ付きで「ミサイル」と書いています。「弾道ミサイルの発射であれ、人工衛星の打ち上げであれ……」という箇所もあります。

こういう書き方からは、自衛隊は専門家としてミサイル認定するのに反対だと言っているように見えます。政府がそう言うんだからしぶしぶ付き合っているような気がします。

2.実験失敗が明らかになった

発表文につけられた資料で、ロケット実験が失敗だったことが示されています。
*http://www.mod.go.jp/j/library/bmd/20090515c.pdf

資料2ページの第1段ロケット落下地点を見てください。かなり広くとっている危険予想水域の西端に落下しているのがわかります。つまり第1段ロケットの段階で、すでに推力が期待を大幅に下回り、飛距離が不足していたことが分かるのです。

第2段ロケットは3段目との分離に失敗し、着水予想水域ギリギリの所までしか行かなかったそうです。そんなに遠いところまで監視する能力が自衛隊にはないのではっきり分からないんですが。

ミサイルだったら遠くまで飛べばそれでいいことにはなりません。切り離しにも、弾道軌道への投入もできなかったのです。ミサイル実験だったとすれば、弾頭を大気圏に再突入させる実験ができなかったのは致命的です。これができなければミサイル実験が成功したとはとても言えません。

3.MDは役立たず?

防衛省としては不本意だったでしょうが、MD(ミサイル・ディフェンス)にとって不利なデータが載っています。

防衛省は当初発表で第1段ロケットが「秋田県の西、約280kmの日本海上に、落下した」と発表していました。しかし解析の結果、「秋田県の西約320km」に訂正しているのです。自衛隊が全力を挙げて監視している目の前で打ち上げられ、着水予想水域まで事前発表していて飛翔コースも告げられていたのに、落下地点を50kmも間違えたことになります。50kmもずれたのでは、自慢のペトリオット・ミサイルもサード・ミサイルも当たらないでしょう。いくらミサイルが優秀でもレーダー解析がこれでは……。

MDが言われているほどには正確無比のものではないことが分かりました。対費用効果はどうなんだろうとか、ミサイル抑止のためには別の手段の方が有効ではないかとか、今後も国民的議論が必要でしょう。短い発表文ですが、いろいろなことが分かって有益でした。

おまけ:人工衛星だったのか、ミサイルだったのか

(a)ミサイルにしてはロケットのブースト時間が長く、人工衛星に近い。

人工衛星は発射の衝撃で機器が壊れてはいけないので、ゆっくり加速するのです。ミサイルにはそういう気遣いはありません。今回のブーストは人工衛星の打ち上げに近いそうです。

(b)人工衛星にしては、支援システムが整備されていない。

軌道監視のための電波リンクがなければ解析もできません。しかし朝鮮政府はそういう協力を各国に求めず、撃ちっぱなし。

地上に送信されているという電波(例によってそれをキャッチできたのは朝鮮だけ。全世界のアンテナはそれより高性能なのに、電波をキャッチできたものは一台もありません)についても、国際電気通信連合(ITU)に通告して周波数の割り当てを受けるという手続きをとっていません。

第2段ロケットの着水地点に派遣されていた朝鮮の観測船は、発射を待たずに帰ってしまいました。

何をやっているのでしょう。

このどっちつかずの奇妙な振る舞いは、ミサイルでもなく、また真面目な人工衛星でもなかったことを示していないでしょうか。単に国威発揚のための大がかりなショーだったと考えればつじつまはあいます。何のためにそんなことをするのか、合理的に考えても答えが出てきません。


<以下転載>
北朝鮮によるミサイル発射について
平成21年5月15日
防衛省1 経緯

朝鮮中央通信は、3月12日、北朝鮮が国際民間航空機関(ICAO)等の国際機関に対して、「人工衛星」を打ち上げる準備の一環として、航空機・船舶の航行の安全に必要な資料(注1)を提供したと報じた。

(注1)4月4日から8日の間の毎日11時から16時まで(日本時間)、日本海及び太平洋の一部に危険区域を設定したとの内容。

防衛省は、情報収集・警戒監視の態勢を強化し、3月27日、不測の事態に備え、自衛隊法第82条の2第3項に規定する弾道ミサイル等に対する破壊措置命令を発出し、イージス艦とペトリオット・ミサイルPAC-3を展開させ、必要な態勢をとった。また、防衛省は、4月5日の発射に際しては、直ちに地方公共団体等への情報提供を実施できるよう、発射情報を入手次第、官邸や関係省庁に提供した。

なお、4月10日、政府は、今回の北朝鮮による発射が、国連安保理決議第1695号及び第1718号(別添1参照)に違反する北朝鮮の弾道ミサイル計画に関連する活動であること等にかんがみ、「北朝鮮によるミサイル発射」と呼称することとした(本文書では北朝鮮が発射したものを「ミサイル」という)。

2 分析

現時点までに入手し得た諸情報を分析・検討して得られた内容は以下のとおりである。

(1)発射後、「4月5日11時30分頃、北朝鮮から東の方向に1発発射された。」と発表した件(別添2参照。以下同じ。)については、北朝鮮は、同日11時30分、北朝鮮北東部沿岸地域のテポドン地区から1発の「ミサイル」を発射したと判断される(注2)。

(注2)北朝鮮は、発射当日、「銀河2号」が同日11時20分に咸鏡北道花台郡にある東海衛星発射場から発射され、11時29分2秒に「光明星2号」を自らの軌道に正確に進入させた旨発表。

「11時37分頃、東北地方から太平洋に通過したものと推定される。」と発表した件については、当該「ミサイル」は、1段目の推進装置とみられる物体を分離した後、11時37分頃、我が国の上空約370km~約400kmを東北地方から太平洋に通過したと判断される。我が国領域内には落下物は確認されていない。

「落下物1が11時37分頃秋田県の西、約280kmの日本海上に、落下したものと推定される。」と発表した件については、1段目の推進装置とみられる物体は、11時37分頃、北朝鮮が日本海に設定した危険区域内である秋田県の西約320km(テポドン地区から約540km離れた場所)に落下したと推定される。

「落下物2が11時43分頃日本の東、約1270kmの太平洋上に落下すると予測された。(11時38分の時点)」と発表した件については、そのような落下は確認されていない。

「11時48分頃、日本の東、2100kmの太平洋上で追尾を終了した。」と発表した件については、2段目以降の部分については、テポドン地区から3000km以上飛翔して、11時46分頃、北朝鮮が太平洋上に設定した危険区域の西端付近に落下したと推定される。

北朝鮮が発表した、「人工衛星を軌道に進入させることに成功した」こと及び「衛星から旋律等が470メガヘルツで地球上に伝送されている」こと(注3)は確認されていない。

(注3)北朝鮮は、発射当日、衛星からは、不滅の革命頌歌「金日成将軍の歌」と「金正日将軍の歌」の旋律と測定資料が470MHzで地球上に伝送されており、衛星を利用してUHF周波数帯域で中継通信が行われている旨発表。

(2)今回の発射は、北朝鮮は3段式の人工衛星運搬ロケットであると発表しているが、これまでの北朝鮮の弾道ミサイル開発状況等を踏まえれば、「テポドン2」又は派生型(注4)が利用されたものと判断される。

(注4)「テポドン2」は、新型ブースターを1段目、ノドンミサイルを2段目に利用した2段式ミサイルで、射程が約6000km、液体燃料推進方式であると考えられる。2006年に発射実験を行ったが、発射数十秒後に高度数kmの地点で、1段目を分離することなく空中で破損し、発射地点の近傍に墜落したと考えられる。また、「テポドン2」の派生型については、たとえば、2段式の「テポドン2」の弾頭部に推進装置を取り付けて3段式としたものなどが考えられる。

なお、北朝鮮の朝鮮中央テレビの映像等を踏まえれば、その全長は約30mで、3段式であった場合、1段目の長さは約16m、2段目の長さは約8m、3段目の長さは約6mとなる。また、燃焼の火炎状態等から、1段目の推進剤として液体燃料を使用したと考えられる。

(3)今回の発射については、
物体が軌道を周回していることは確認されていない
地球周回軌道に乗せ得る速度(第一宇宙速度)に達していることは確認されていない
人工衛星の打ち上げと考えられる軌跡(平坦な軌跡)は確認されていない
との特徴を有している。

以上のことから、今回の発射は、北朝鮮が発表したような「運搬ロケットで人工衛星を軌道に正確に進入させることに成功した」ものとは考えられない。弾道ミサイルの発射であれ、人工衛星の打ち上げであれ、推進部の大型化、多段階推進装置の分離、姿勢制御、推進制御等必要となる技術は共通していることから、北朝鮮は、今回の発射を通じて、弾道ミサイルの性能の向上のために必要となるこれら種々の技術的課題の検証等を行い得たと考えられる。

今回の発射に際して、1段目の推進装置とみられる物体が分離し、2段目以降の部分が3000km以上飛翔したと推定されること(注5)から、2006年の「テポドン2」の発射失敗時と比較すれば、北朝鮮が弾道ミサイルの長射程化を進展させたと考えられる。

(注5)1998年の発射実験の際に「テポドン1」が飛翔した距離(約1600km)の約2倍。

一般論ではあるが、北朝鮮が発射実験をほとんど行うことなく、弾道ミサイル開発を急速に進展させてきた背景としては、外部からの各種の資材・技術の北朝鮮への流入の可能性が考えられる。また、弾道ミサイルの輸出先で試験を行い、その結果を利用しているとも考えられる。

3 我が国の安全保障等に与える影響

北朝鮮は、今回の発射を通じて、所要の技術を検証し得たと考えられるため、将来、更なる長射程化等の弾道ミサイル開発を一層進展させる可能性が高い。

長射程の弾道ミサイル実験は、射程の短い他の弾道ミサイルの射程距離の延伸、弾頭重量の増加や命中精度の向上にも資するものと考えられるため、今回の発射が、ノドン等北朝鮮が保有するその他の弾道ミサイルの性能の向上につながる可能性が考えられる。

今回の発射により北朝鮮の弾道ミサイル開発が進展するにともない、これまで弾道ミサイルに関する協力が指摘されている国々に対する弾道ミサイル本体又は関連技術の更なる移転・拡散が一層懸念される。

今回の発射は、北朝鮮の弾道ミサイルの開発・配備に加え、移転・拡散の観点からも、我が国周辺地域のみならず、国際社会全体に不安定をもたらす要因となっており、その動向が強く懸念されるものである。

別添1(PDF:81KB)国連決議
*http://www.mod.go.jp/j/library/bmd/20090515a.pdf

別添2(PDF:78KB)発射当日の防衛省発表
*http://www.mod.go.jp/j/library/bmd/20090515b.pdf

参考資料(PDF:410KB)図解資料
*http://www.mod.go.jp/j/library/bmd/20090515c.pdf