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田母神俊雄氏が2010年11月21日に行った講演の内容を13項目に整理し、その間違いを「タモさんのトホホな講演 デバッグ」の通しタイトルで9回に分けて指摘する。
講演全体のまとめ
9回の目次
1.自己紹介
<田母神講演の要約>
危険人物の田母神です。でも私はとてもいい人なんです。自分は日本を誉めてクビになったんです。「日本はいい国だ」と書いたら、政府が「いや、日本は悪い国なんだ、侵略をした、とんでもない国なんだ」と言って、私を辞めさせました。世界広しといえども、自分の国を褒めたら辞めさせられる国は日本だけです。
田母神さんは「日本はいい国だ」と言ったのでしょうか。違います。講演の中にも出てきますが、彼は日本がコミンテルンの陰謀で戦争に引きずり込まれたと書いたんです。自分の意志で戦争したのではない、侵略したのではない、だから悪く言うなと。
田母神さんの言うのが本当なら、日本はその気もないのに、うっかりコミンテルンの謀略に乗ってしまって、国の命運をかけた大戦争に乗り出したということになります。これでは日本は世にも珍しいおっちょこちょいの間抜けな国だったと言っているのと同じです。日本を誉めたことになるのでしょうか。
また、日本はアジア諸国を解放したのだと田母神さんは言います。これは後に述べるとおり歴史事実として間違いですが、仮に田母神さんの言い分が正しいとすれば、ご自分の主張と矛盾します。日本に戦争をする気がなかったのなら、アジアを解放するために戦うつもりもなかったとしなければ辻褄が合いません。
戦争した結果として西欧諸国が疲弊し、アジア諸国が独立できたのであっても、それは日本が望みもしなかったことであって、よく言っても「結果オーライ」でしかありません。田母神さんが言うようにコミンテルンが日本を戦わせ、その結果としてアジア諸国が独立できたということなら、アジア諸国を独立させたのはコミンテルンだということになってしまわないでしょうか。
2.歴史認識の誤りが国を危うくしている
<田母神講演の要約>
尖閣諸島で中国の漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりをしかけてきました。諸外国ならば、こういうことがあれば漁船を射撃しています。諸外国の軍は、国際法に基づいて行動します。ネガティブリストといって、これをしちゃいけないと決められていること以外は何でもできる。ところが自衛隊は(海上保安庁も)、法律に定められていなければ何もできない。ポジティブリストと言います。しかし刻々と状況は変わっていくのに、そのたびにいちいち安全保障会議を開いたり、法律を作らなきゃ行動できないなら、間に合いません。日本もあんな事態は、現場に任せとけばいいんです。現場がちゃんとやります。
韓国は中国漁船を2,000隻も拿捕して、18億円の賠償金を取っています。中国は何の抗議もしていません。日本は賠償金を取らずに船長を釈放して、フジタの社員を釈放して貰うために賠償金を支払った。どういうことですか。
中国は尖閣諸島を領有しようとしている。漁船がぶつかってきたのは、そのためなんです。日本の出方を見ているんです。あの船長さんは漁民じゃありませんからね。中国軍の現役大佐です。放置していたら、いずれ西南諸島も中国領だということになり、つぎは九州を取られ、日本は瓦解します。
どうして日本は諸外国のように現場に任せて毅然と対処できないのか。「自衛隊に任せると侵略戦争を始めるんじゃないか」、自民党の議員でもそう言いますからね。軍隊が勝手に動いたら侵略を始める、こういう考えは、歴史認識を間違えているから出てくるんです。歴史認識の間違いが、現在の安全保障を危うくしているんです。
「諸外国の軍は、国際法に基づいて、これをしてはいけないと決められていること以外は何でも出来る」というのは真っ赤なウソです。そんなことで軍行動を規律できるはずがない。これこれの任務を付与するので、こういう作戦行動をとれというポジティブな命令と、これこれはしてはならないというネガティブな交戦規則があって、初めて軍は動けるのです。
たとえば北朝鮮の砲撃に対して韓国軍が直ちに砲撃を返したのは、そうせよという命令があらかじめ下されていたからです。しかし交戦規定に従って行動せよという命令だったので、戦闘機が上空にいたのに、戦闘機からの反撃ができませんでした。韓国は今後は自衛権に基づいて行動すると言っています。それならば戦闘機から反撃できるからです。
自衛隊は(海上保安庁も)、出来る事柄が細かく法律に定められていて、法律に書いてないことは出来ないと言うのもウソです。
自衛隊の「部隊行動基準の作成等に関する訓令」にはこう書いてあります。
部隊行動基準は、国際の法規及び慣例並びに我が国の法令の範囲内で、部隊等がとり得る具体的な対処行動の限度を示すことにより、部隊等による法令等の遵守を確保するとともに、的確な任務遂行に資することを目的とする。
この通り、自衛隊の行動基準(交戦規則)も、限度を定めたネガティブ方式です。
田母神さんは自衛隊は防衛出動命令がなければ戦えない不自由な軍隊だと言いますが、命令がなければ戦闘できないのは軍隊の基本のキで、諸外国の軍隊もそうです。もちろん、日本陸軍もそうでした。命令がないのに戦闘を開始したらどうなるのか、陸軍刑法を確かめましょう。
陸軍刑法 第二章 擅權(せんけん=専権)ノ罪
第三十條 指揮官外國ニ對(たい)シ故ナク戰鬪(せんとう)ヲ開始シタルトキハ死刑ニ處(しょ)ス
このとおり、命令なしに戦闘を開始すると、日本軍だったら死刑なのです。日本軍だけではありません。どの国の軍隊も、命令なしに戦闘できるのは正当防衛の場合に限られています。自衛隊と同じことです。
この世界標準の制限でさえも不自由だと考えたのが、日本陸軍でした。そして後に述べるように命令なく野放図に戦闘を拡大しました。これが導引となって悲惨な大戦争に至った負の教訓から「軍の手綱を放したら侵略戦争を始めてしまう」という認識が定着したのです。それなのに日本陸軍と同じことを自衛隊の高級幹部が考えていたのでは、防衛省が自衛隊は旧軍とちがうのだといくら叫んでも虚しいのではないでしょうか。これは専守防衛を旨とする自衛隊にとって、不幸なことだと思います。
中国船の不法行為に対して、海上保安庁はちゃんと当該船を拿捕し、乗組員を逮捕しています。犯罪者をちゃんと捕まえることができているのに、どうしてわざわざ射撃しなくてはいけないのでしょうか。
船長が中国軍の現役大佐だというのも、日本のネットに広まっているデマです。元ネタは米国のラジオ番組です。ゴードン・チャンという中国人が、「船長は旧軍人、特殊訓練を受けている」と語ったのですが、何の裏付けもありません。チャンは反共産党・反中国政府の立場に立っており、『やがて中国の崩壊がはじまる』という本の著者です。しかもゴードン・チャンのガセネタでも「元軍人」と言っているのに、田母神さんはいつの間にか「現役の大佐」にしてしまっているし。こういう情報リテラシーの欠如が田母神さんのお話の特徴です。