言論の自由と責任ということ

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首相、前空幕長の「言論統制」主張を全面否定
読売新聞 2008/11/11 23:31
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言論の自由というけれど、自由には責任が伴います。まして航空幕僚長においてをや。私は以前の日記に田母神氏の発言は「自衛官の宣誓に違反している」と書きました。

「空自の皆さんに同情いたします」2008/10/31
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このたび宝珠山昇氏(防衛省で官房長、防衛施設庁長官などを歴任)も同じ意見であることを知り、自分の意見に自信を得ました(*本稿後半に転載)。出所が花岡信昭メールマガジンというのがちょっと……なんですけど、正しいものは正しい。

田母神氏は退職しましたが、一私人であっても「言論に対する責任」はついて回ります。

  1. 日米中はコミンテルンに操られて戦争に引きずり込まれた。
  2. 戦後、アジア各国は独立を果たした。
  3. アジアが解放されたのは日本の戦いのおかげだ。

このような誤った言論を垂れ流す無責任な行為には、厳しい批判の目が向けられるべきです。歴史評価はさまざまであると言う声もあります。しかし田母神氏の意見は歴史評価の名に値しません。事実に基づかず、論理矛盾のはなはだしい、単なる感情の吐露にすぎないからです。彼の論理がいかにデタラメな代物であるか、分かり易い例に置き換えて考えてみましょう。

(a) オウム信者は麻原に操られてサリンをまいた。
(b) 事件後、オウム事件被害者救済法が作られた。
(c) 被害者が救済されたのはオウム信者のおかげだ。

これは田母神氏と同じ論理構造です。コミンテルが麻原、日本がオウム信者に置き換わっているだけです。(a)と(b)は事実ですが、(c)が正しくないのは誰にでも同意していただけるでしょう。

田母神氏の意見で正しいのは「2」だけです。しかし仮に「1」も正しいとしても、それでも「3」の結論に至らないのです。こんな言説を持ち上げる一部の風潮は、はなはだ憂慮に耐えません。

花岡信昭メールマガジン652号(2008年11月12日)
http://melma.com/backnumber_142868_4286908/

≪宝珠山氏の見解≫
防衛省で官房長、防衛施設庁長官などを歴任した宝珠山昇(ほうしゅやま・のぼる)氏から、以下の所信が届いた。宝珠山氏の了解を得て、掲載したい。
防衛省、自衛隊の幹部としての基本的姿勢のあり方を説いたものだ。「田母神問題」をめぐる筆者の立場とは異なるが、その真摯なお考えは傾聴に値する。今回の問題はさまざまな角度から議論されるべきだと考える。


『田母神氏の論文応募問題』に関する、審査委員をされていた立場も踏まえての所論、投稿の公平な掲載に、敬意を表し、感謝しております。改めて、小生の理解をまとめてみましたので、投稿させていただきます。

「法令順守」は自衛隊の生命

【要旨】法令順守即ち規律の順守と命令に対する服従は自衛隊の生命である。田母神氏は自衛隊の最高指導者群に列しながらこれに違う行為をした。これを慫慂するが如き論議は国益を著しく損なう。

自衛隊は、高度な部隊行動能力を身につけて初めて任務を遂行できる組織体である。隊員は規律厳守の義務〔法令(憲法、法律、政令、各種規則、極秘のマニュアルなどを含む)を順守し、命令に服従する〕を負わされている。旧日本軍は、重い刑罰を科すことができる軍事特別裁判所を運用し、厳しい教育訓練、厚い処遇などによって、高い規律を確保していた。

日本国憲法は、特別裁判所の設置を認めていない(第76条第2項)。このため、防衛省・自衛隊は、隊員(文官を含む)に任命するとき、「宣誓書」(後記参照)に署名する契約を結ぶことによって規律を保持することにしている。規律違反に対する罰則は、他の公務員等より重いものとなっているが、旧軍刑法や諸外国の例には及ばない。処遇は一般公務員に準じている。

緊急事態において、一致団結、規律を厳守し、任務を遂行できるように指揮・指導・訓練するのが、各段階における部隊の指揮官・部隊長、これを補佐する幕僚の責務である。

田母神氏は、これを率先垂範すべき最高指導者群に列しながら、自衛官に任官するとき署名した「宣誓」、即ち、国との契約に反した行動を取るという大きな誤りを犯したのである。

その一つは、自衛隊員が職務に関連する意見などを公表するときには文書をもって承認を得ることとされている内部規律を、周辺の諫言をも無視して、守らなかったことである。これは、それがいかに軽度なものであれ、最高指導者としては「脇が甘かった」、「手続きミス」等では済ませられない、重大な失態、自覚不足といわざるを得ない。仮にこれが下部組織に蔓延すれば、自衛隊は任務を達成できなくなるのみならず、旧帝国軍と同じ道に進む危険性をも孕むものである。

二つ目の反則は、反政府言動とも解される恐れのある主張を公表したことである。これは悪意に解すれば反体制行動を扇動するものともなるもの。その影響は、意図するにしろしないにしろ、階級社会であればあるほど、発言者の地位が上がれば上がるほど、閉鎖社会であればあるほど、大きくなるものである。彼は国の武力集団の指導者としての自覚・自制を欠いていたことになる。

言うまでもなく、「自虐史観」、「東京裁判史観」、「村山談話」等への批判を展開し、日本の独立度の向上を図ることは自由であり、小生も歓迎している者の一人である。しかし、これが武力集団の構成員である自衛官を宣誓や規律違反も恐れない行動に誘導・扇動することとなれば、著しく国益を害する。論者がこの点に関しても配慮されることを希望・期待する。

自衛隊員の宣誓「私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身をきたえ、技能をみがき、政治活動に関与せず、強い責任感をもって専心職務の遂行にあたり、事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえることを誓います。」(根拠法令:自衛隊法第52条及び53条及び自衛隊法施行規則第39条)

               (2008.11.11:宝珠山昇記)

<追記1>

■寄せられた批判に応える
(編集注:記事に対する下記の批判的コメントへの返信)

>田母神論文を「事実に基づかず」と批判するなら、私(編集注:批判者)の指摘した箇所を
>もう一度きちんと確認し、理解した上で、正面から田母神論文を論破するべきです。
>田母神氏の論文は事実に基づかずデタラメな箇所があると指摘されるなら
>その箇所を本文より引用して証拠を挙げて論破すれば良いでしょう。

では一部についてだけですが、そうしましょう。

私の書いていることが間違いだと思うなら、「証拠を挙げて論破」してください。

(田母神) 日本は19世紀の後半以降、朝鮮半島や中国大陸に軍を進めることになるが相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない。
(田母神) また我が国は蒋介石国民党との間でも合意を得ずして軍を進めたことはない。常に中国側の承認の下に軍を進めている。

(どろ) 満州事変は中国の了承を得たのですか? 上海事変、南京攻略、徐州作戦などはどうですか? 全然了承を得ていませんね。

(田母神) 1928年の張作霖列車爆破事件も関東軍の仕業であると長い間言われてきたが、近年ではソ連情報機関の資料が発掘され、少なくとも日本軍がやったとは断定できなくなった。

(どろ)「ソ連情報機関の資料」と言うとまるで公式文書ですが、実際には「自称元ソ連情報機関員の手記」です。この「論文」の記述にはこのような正確性に欠ける表現が多々あります。

(田母神) 最近ではコミンテルンの仕業という説が極めて有力になってきている。

(どろ) 歴史学会では無視されています。

(田母神) 東京裁判の最中に中国共産党の劉少奇が西側の記者との記者会見で「廬溝橋の仕掛け人は中国共産党で、現地指揮官はこの俺だった」と証言していたことがわかっている

(どろ) 最初にそう語ったのは桂鎮雄氏です。記者会見のことを知ったのが昭和22年だそうですが、そのことを雑誌に書いたのは平成元年です。その間、だれ一人として記者会見の話を知らず、いまだにその記者会見を報道したという新聞記事が発見されておらず、その記事を見たという人さえおりません。桂鎮雄氏の話では、本人も話を誰かから聞いただけで見ていないそうです。田母神さんも見ていないはずです。こういう状態であっても「わかっている」と言えるなら、どんな歴史だって作れます。

(田母神) 朝鮮半島も日本統治下の35年間で1 千3百万人の人口が2 千5百万人と約2倍に増えている「朝鮮総督府統計年鑑」。日本統治下の朝鮮も豊かで治安が良かった証拠である。

(どろ) 白人の過酷な支配にあえいでいたはずのフィリピンでは、朝鮮半島以上に人口が増えているのですが。いま最も人口が増えているのは、貧しさと戦争の中にあるアフリカなんですが。人口増加と、豊かさや治安との間には、もう少し複雑な関係があるようです。

(田母神) また1915年には袁世凱政府との4ヶ月にわたる交渉の末、中国の言い分も入れて、いわゆる対華21箇条の要求について合意した。これを日本の中国侵略の始まりとか言う人がいるが、この要求が、列強の植民地支配が一般的な当時の国際常識に照らして、それほどおかしなものとは思わない。

(どろ) 植民地獲得競争を「それほどおかしなものとは思わない」と語ったり、日本が植民地を解放したことを誇ったり、論旨が一貫していません。

(田母神) 廬溝橋事件の時でさえ5600名にしかなっていない「廬溝橋事件の研究」(秦郁彦、東京大学出版会)。このとき北京周辺には数十万の国民党軍が展開しており、形の上でも侵略にはほど遠い。

(どろ) 数万人のアタワルパの兵士と戦ったのは200人ほどのスペイン兵ですが、この戦いを侵略と記述していない歴史書を見たことがありません。彼我の兵力数をもって侵略かそうでないかを語る軍事専門家の文章に出遭ったのも初めてです。

(田母神) そこでアメリカは、日米戦争の最中である1943年から解読作業を開始した。そしてなんと37年もかかって、レーガン政権が出来る直前の1980年に至って解読作業を終えたというから驚きである。

(どろ) まったくの事実誤認です。解読は初期に終わっていて、あとは翻訳と再翻訳の作業が細々と続けられていただけです。以下は本物の米国のサイトですので、確認して下さい。
*http://www.nsa.gov/venona/venon00127.cfm

(田母神) ハリー・ホワイトは日本に対する最後通牒ハル・ノートを書いた張本人であると言われている

(どろ)ホワイトの原案は日本に妥協的な内容だったので採用されていません。


<追記2>

■おまけ

田母神さんは「日本は侵略国家であったのか」というタイトルで何を書いていますか?
段落ごとに一行要約

(1) 旧日本軍は条約・合意に基づいてのみ、軍を配置した。参考文献なし。
(2) コミンテルンに操られた蒋介石のテロに対して、軍を動かした。参考文献なし。
(3) 張作霖事件なども他国が関与したので、日本のみの責任ではない。参考文献:ユン・チン、黄文雄、櫻井よしこ。
(4) 朝鮮と台湾の人口が増えた。参考文献:統計年鑑。
(5) 朝鮮と台湾出身者で、日本軍で出世した例。参考文献なし。
(6) 日本政府は李朝と清朝のプリンスに、皇族や華族を嫁がせた。参考文献なし。
(7) 欧米の植民地支配と日本の支配は異なる。参考文献なし。
(8) 日本は他国との合意の下で軍を動かした。参考文献:秦郁彦、渡部昇一。
(9) すべてはコミンテルンのしわざだったんだよ! 参考文献:月刊正論。
(10) 戦っていなかったら欧米の植民地だった。参考文献なし。
(11) アジア・アフリカの今は、日本のおかげである。参考文献なし。
(12) 安保・竹島・北方領土について。著者の感情。
(13) 自衛隊の行動制約は東京裁判のマインドコントロールであるとの主張。
(14) 日本軍は東南アジアで好評である。参考文献なし。
(15) 日本ってすばらしい。著者の感情。

(4) (5) (6) (7) (12) (14)は日本の戦争が侵略か否かとは直接関係のない記述です。
この田母神論文のタイトルをもう一度ご覧下さい。
この主旨無しに論文を書いてはいけません。
「日本は侵略国家であったのか」ですよ?
田母神さんにこう言ってあげてほしいものです。