外国人参政権を考える(憲法論)

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外国人参政権の問題でネット上が揺れています。

国籍法と違い、この件については私も外国人の地方参政権に違和感がないかと問われればないとは答えにくいのですが、それでも容認してもよいだろうとは思います。

それにしてもアッチ側の反対論というのがちとお粗末。もっとまともな反対論もあろうに。(教えてやらないけど。)

外国人の地方参政権について最高裁の判断をわかりやすく噛み砕くと、こうです。

  • 選挙権は日本国民固有の権利(生まれながらの権利という意味)である。
  • 憲法は外国人の生まれながらの権利と認めていない。(法によって権利を与えることを禁じているわけではない)
  • 地方参政権は、そこに住んでいる住民に地方自治を任せようという憲法の趣旨にもとづいている。
  • そこで、永住権を持つなどその地域に特段に密接な関わりのある外国人に地方自治に参画させることは、禁じられていない。
  • そういう法律を作るか作らないかは、立法府の選択の問題である。

もっと分かりやすくいうなら、こうです。

「結婚しているんだから毎日チューしてよ」という要求に対して、最高裁は言います。

結婚しているからといって毎日チューしてもらう権利は保障されていない。だけどそうしてはいけない理屈もない。毎日チューするかどうかは、2人の合意の問題である。

さて、これを前提に外国人に地方参政権を与えることに反対する人たちの言い分を見てみましょう。

反対論①
外国人も納税しているのだから選挙権を与えるべきだと唱える人は、現在の普通選挙制度というものがわかっていないのではありませんか。納税の有無や納税額の多寡にかかわりなく、すべての成年男女国民に等しく選挙権を付与するのが普通選挙制度です。もし納税の有無を問題にし出したら、普通選挙制度は否定され、逆に、学生や低所得者で税金を納めていない人達には、選挙権は与えられないことになります。

前半の解説部分は正しいけれど、後半の論理延長部分は間違っています。「AならばBだ」は「非Aならば非Bだ」に変換できないからです。

「結婚してるんだから毎日チューしてもいいじゃないか」はまあ正しいけれど、「毎日チューしていなければ結婚が認められない」はおかしいでしょう。

「納税しているから選挙権を与えるべき」は「納税していなければ選挙権を与えない」に変換できないのです。

納税していない人は法律で非課税とされているのですから、選挙権に影響を与えません。
法律で認められていないのに納税しない、つまり脱税している場合は禁固以上の刑が科せられることがあって、そのときは公民権が停止されて選挙権を失います。

反対論②
外国人に参政権を付与した場合、本国への忠誠義務と矛盾しないか、日本国と本国との間で国益上の対立や衝突が生じた場合どうするのか、といったことなども当然問題となります。

通商の自由化もよく似た問題を抱えています。日本は外国企業に自由な活動を許しており、日本国と本国との間で国益上の対立や衝突が生じることはしょっちゅうあり、外国企業の日本人従業員はしばしば相手国の言い分を支持しますが、特に問題になりません。それは別個の通商交渉で片付く問題です。

外国との対立や衝突にあたって日本国籍があれば日本の味方、外国籍ならば外国の味方というのは極めて単純な思い違いであると思います。

反対論③
参政権は他の人権と違って、単なる権利ではなく、公務(義務)でもあるわけですから、いつでも放棄し、本国に帰国することが可能な外国人に、参政権を付与することなどできるはずがありません。

日本人だっていつでも国籍を放棄して移住できるんですが。

加えて、いま導入が検討されているのは地方参政権です。半年以上住めばその自治体の選挙権が与えられます。いつでも放棄し、すぐによその市県に引っ越すことが可能な人全員に、参政権を付与しています。実際、そんな人はいくらでもいます。「できるはずがありません」とは言えません。

反対論④
地方選挙権についても憲法第九三条二項の「住民」は、当然のことながら「日本国民たる住民」を指しています。それゆえ、地方公共団体の首長や議会の議員についても、「国民固有の権利」として、日本国民しか選挙権を行使することはできません。

上にみたとおり、間違いです。

反対論⑤
参政権のうち、被選挙権が無理ならせめて選挙権だけでもというご意見ですが、選挙権と被選挙権は一体のものですから、これを分離して選挙権だけ付与するということは不可能です。

被選挙権だけを分離して選挙権だけ付与するということは可能です。20歳以上25歳未満の日本国民には、選挙権はあるが参議院議員の被選挙権がありませんから。

反対論⑥
在日韓国人が参政権を望むというのであれば、帰化するのが最も自然でしょう。彼らが帰化しようとしないのは、本国に対して今なお忠誠心を抱いており、日本には忠 誠を誓いたくないからであると考えざるをえません。

「帰化」とは国籍取得のことです。「日本国籍を持たない人に参政権を与えてはいけない理由」が、「日本国籍をとるのが最も自然だから」というのは同義反復で説明になっていません。

国籍と帰属意識は別の問題です。日本国籍を有しているから日本に忠誠心を持っているとは言えないように、韓国籍を有していても韓国政府に忠誠心があるとは言えません。出身地との紐帯を重視しているだけかも知れません。

米国など、最も忠誠を求められる兵役を、移民の国籍取得の条件にしているくらいです。当然ながら、兵役期間中は米国籍を持ちません。国籍と忠誠心の間に明確な関連はないでしょう。

反対論⑦
日本に何のメリットもない

メリットは立場によって異なります。私たちはいま普通選挙権を持っていますが、それに反対したい人はいたでしょう。

マリー・アントワネット「靴屋やパン屋に選挙権を与えてわらわに何のメリットがあるのか」
昭和の財閥「国民に普通選挙権を与えて我々に何のメリットがあるのか」

普通選挙権は彼らの独善的利益に何のメリットもありませんでしたが、国民が主権者意識をもって政治に参画している国は、安定して発展しています。外国人に地方参政権を認めても我々の既得権に何のメリットもありませんが、共に地域共同体を形成する永住外国人が政治に参画すれば、地域はより安定し発展するのではないでしょうか。それが反射的なメリットとして我々に返ってくると、私は思います。

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