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「就労支援6億9千万円 成果なし」
こういう見出しの記事が今朝の朝日新聞に掲載された。
■成果なしと報じられたのは「生業扶助」という制度
「生業扶助」という制度がある。生活保護を受けている人を対象に、仕事に就くための支援予算が出されているものだ。この制度が役に立っていないことを、会計検査院が指摘した。そのことを伝える記事だ。
指摘された具体的事例は2つ。
- 自動車教習所に通う金を支給したのに、2日間しか通っていなかった。
- 職業訓練校に通う交通費を出したのに、訓練校を出て2年たっても職が決まらない。
前者のように、資格を取ると言って果たさなかった「不正」が825人。後者のように資格を取ったが生かせていない事例が2024人あるという。
一読して、この記事を書きながら記者は違和感を覚えなかったんだろうか、と疑問を禁じ得なかった。
■成果のあがった指摘が記事にない
記事によれば、支出された予算は6億9千万円。成果の見られなかったのが、そのうち1億2千万円だという。すると、5億7千万円分は、会計検査院が認めざるを得ない成果があったことになる。82.5%に効果があったのだ。
その人たちは、就労して生活保護を脱したか、脱しないまでも保護費を減額できたのだろう。充分な成果ではないか。ところが、そういった希望の見える分析が、記事にはまったく現れないのだ。
■成果がないことは問題なのか
成果の出なかった1億2千万円を支給された人数が約3千人だから、1人当たり平均4万円である。支給総額が6億9千万円だから、支給された人は1万5000人もいた計算だ。資格を取ったが就労できていないのは、このうちの2024人。13.3%に当たる。どこに問題があるのだろうか。
日本の若年失業率は8.2%だが、日本の統計だと1カ月に1日でも働けば就労していると見なされるし、休職をあきらめて統計からはずれた失業者も加えれば、潜在的失業者はこの1.5倍に及ぶと言う。世の中総体が不景気で仕事がないのだから、13.3%が職につけないのには、やむを得ない面もあるのではなかろうか。
こういう面を見ないで、単純に「仕事に就いていない→制度はムダ」と短絡的に決めつけるかのような論調はいかがなものか。生活保護バッシングの風潮に乗っかった、悪意ある印象操作と疑われても仕方がない。
■「不正」があることも事実だけれど
明らかな「不正」も、あるにはある。その人数は825人だそうだ。支給された人全体の、5.5%にすぎない。
国民の税金を使うのだから、たとえ少人数であっても、不正が許されないのはいうまでもない。だが指摘されたケースは、制度の不備を示しているのだろうか。
いや、そうではない。予算の出し方が悪いのではなくて、予算を受け取りながら、するべきことをしなかった方が悪いのだ。
いわば、公共工事を受注した会社が、予算通りの仕事をしなかったのと同じ。手抜き工事と同じである。そんな不正など、世の中には掃いて捨てるほどあろう。
これは支出そのものが不適正だった復興予算や、防衛庁のカラ見積や、建設談合問題などとは質が違う。不適切な支出なのではなく、結果的に政策効果が上がっていない事例なのだ。
それがダメというなら、何千億というけた外れの予算を投入して、車の走らない道路や船の来ない港を作ったという、政策効果のなかった事業なら、両手両足の指を全部足してもまだ足りない。予算支出の効果を問うなら、そっちをなんとかしろよ。
何十兆円という金をドブに捨ててきたことに何の文句もつけない役所が、「自動車教習所に通う金を支給したのに、2日間しか通っていなかった」って……あんたらはヒマなんかいっ!
不正があるから制度がムダであるかのように言えば、予算執行された後の民間側の末端支出なんか、不正だらけだろう。土木予算など、細かく調査すればほとんど100%不正である。そういった実態と比較すれば、「生業扶助」は実に健全に機能しているといえる。
■ジャーナリズムが報じるべきことは何か
人数で見れば、支給されたお金を94.5%の人が正しく使い、81.2%の人がちゃんと成果をあげた。すごいじゃん。少ない支出で大きな効果をあげているのだ。生活保護を受けている人を適切にケアすれば、こんなに不景気なときでもちゃんと効果が上がるのだ。
これは希望のもてる話だし、記事にするならそういう書き方の方がふさわしかったと思う。たった5.5%に不正があるだけでその制度運用に問題があるかのような会計検査院の発表は、明らかに社会保障を切り捨てるための情報操作だ。まともな記者なら、そこにツッコミを入れるべきではないのか。お上の発表をそのまま垂れ流すだけなら、ジャーナリズムではないと思う。じつに残念な記事だった。