派遣労働と多重債務に共通する問題とは

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私は長年多重債務問題にかわっています。
多重債務に陥った理由はさまざまです。
その人間模様も、ほんとにさまざまです。
極端な例をあげますと。

■多重債務に陥った人の話

ある生活保護受給者は生活保護手帳と振込通帳をマチ金に押さえられていました。マチ金は生活保護費が入るとそれを自分が受け取り、最低生活費だけを一家に渡していたんです。それは違法行為なのでマチ金に抗議して、手帳と通帳を取り戻しました。その時に聞いたマチ金の話はこうでした。

違法はわかっているが、自分がしているのは人助けである。金銭管理しているのだ。あいつには金銭管理能力がない。生活保護費が入るとたちまちパチンコに使ってしまう。それで借金を頼みにくる。貸しても返しにきたためしがない。

他にも借金があるので、自分が話を付けて毎月数千円ずつの分割で返しているが、それを届けるのは自分である。そうまでして自分が返してもらっているのは一ヶ月2万円だけで、利息にもならない。あんたは人助けのつもりかも知らないが、あいつは助からないよ。

翌月、生活保護費を受け取ったその人は、その2日後、手持ちの金が2千円しかないと泣いていました。パチンコに使ってしまったそうです。

こういうのはどうしようもない道楽者ですが、似たようなタイプを他にも知っています。

大きな衣料品店の2代目経営者の息子で、その金銭感覚は同じようなものですが、こちらは親がしっかりしているので40過ぎてもパチンコしたり飲み歩いてのらくらしています。さすがに親も遊ぶ金をジャカジャカくれませんから、こいつはまずサラ金で借金します。それがふくれあがった所で親に泣きつくんです。

■多重債務に追い込むシステム

マチ金は高利です。そして必ず連帯保証人を取ります。グループ貸し相互連帯保証システムと言って、たとえば借金を申し込みに来た顧客5人でグループを作って全員に貸し付け、全員が相互に連帯保証するシステムです。

全員が高利の借金で火だるまになるのですが、一人が逃げようとするとその人の債務が残りの人にかぶさりますから、借金取りが追いかけなくても保証人たちが血眼で探し回ってくれます。借金で首が回らなくなった人が破産しようとすると、連帯保証人はその人を非難します。借りたものを返すのは人間として当然だろう、お前だけ助かればそれでいいのか、お前は畜生か、腐っているのか、などと怒鳴り上げるんです。何度もすさまじいやりとりを目にしました。

でもそう言って非難するひとも、何カ月かあとには必ず借金返済に追われて食うや食わずになります。借金のことで頭がいっぱいになり、仕事が手につかなくなり、家庭では暴力的になるかふさぎこみ、最後には離婚し、一家は離散。家庭が崩壊します。破産するのが一番いい解決法なんですが、夜逃げや自殺に追い込まれる人もかなりいました。うつ病になってしまう人もいました。

そんな人でも、追い込まれるまでは自分が他人と同じ船に乗っていることに気付かないで、他人を非難しているんですよね。まじめな人ほどそうでした。

自分には落ち度がないのに、よく知らないで友人の連帯保証人になったばかりにこういうシステムに取り込まれたタクシー運転手の話を以前日記に書きました。

「あるタクシー・ドライバーの話」

身近であった実話。 個人タクシー業者のAさんは、売り上げが足りないときに、仲間に紹介された地元の高利貸しに、つい借金してしまった。景気が良いときなら返せない利息ではなかったが、震災以来、神戸はとても不景気だ。それ以後、支払いきれない利息の取り立て...
■個人の責任なのか、社会の責任なのか

なぜこういうことを書いたかというと、私はお人好しで世間を知らないから自己責任論を否定しているのではない、ということを示すためです。

高利の金融システムを許している限り、性格的に弱い人が餌食にされるんです。世の中、強くて立派な人だけが生きているのではありません。弱い人やだらしない人が必ずいます。そういう人も含めて世の中はできており、お互い支え合って生きていくしかないんです。弱い人たちに対して自己責任論だけ振りかざせば多重債務問題や派遣問題がなくなるかというと、なくなりません。

サラ金があり、派手なテレビCMが流され、可愛い女の子がニコニコと借金を勧めれば、そりゃあ汗水流して稼ぐより手っ取り早く現金を手にできるのだから、うっかり乗せられるお人よりが出てくるに決まっているんです。

政府が派遣システムを持ち上げ、カッコいい働き方だと勧められれば、つい信用してしまう人がいるんです。派遣システムがある限り、そこに行き着く人が絶えるはずがありません。それは個人の問題という面もあるけれど、システムそのものが間違っているんだから、そこを選択した人だけを責めても問題解決にならないんです。

高利金融システムや派遣システムを改革しないと、その人たちも助からないし、まわりも助かりません。社会的コストも高くなります。

もちろん、個人の自覚の問題というファクターがあることは否定できないでしょう。しかしこれは社会の構造問題という面の方が大きいと思うんです。だっていま起きている派遣切りという事態は、派遣システムが合法化されるまでは存在しなかった問題なんですから。

なのに、どうも自己責任を強調する人は問題解決のためにそれを主張するのではなく、自分とは無関係な事件であって、解決すべき問題などないかのように考えているんではないか。ただ他人を見下げ、溜飲を下げているだけではないかという気がするんです。

■システムを糾す動き

まだ一部ですけど、派遣社員が派遣会社の責任を追及する動きが始まりました。派遣先が契約期間中に契約解除をしたのは違法なのだから派遣会社は損害賠償を求めるべきなのに、そうしないで漫然と契約解除を認めて社員に損害を与えたのが違法だという論理です。

派遣会社にしてみれば、派遣先にたてついたら次の契約がもらえなくなるので、そんなことするより社員を路頭に放り出した方が会社の利益です。こういうことが法的に許されている。こんなシステムがある限り、不条理な派遣切りがなくなるはずがありません。

派遣社員もつぎの仕事をもらうためには泣き寝入りするしかないとあきらめていました。これに抵抗する動きが出てきたのはよいことです。

派遣法を見直そうという動きも政界や官僚の一部から出てきました。

そういう社会的波及効果を派遣村が狙っていたのだとすれば、いろいろな問題があるにしても、私は派遣村の取り組みを支持します。