閣議決定を踏み外した安倍発言が人質殺害を誘発した

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閣議決定を踏み外した安倍発言が人質殺害に至った

安部総理が発表した中東支援は、1月9日に決まっていた(写真)。

その内容はエジプトでの安倍スピーチと全く異なる穏当な内容だ。
その文面は以下のとおり。

「ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します。」
「今後、国会承認を得て、ISIL対策、周辺国支援を目的として、主に国際機関を通じて総額2億ドルの新規支援を行う予定」
「なお、支援の主な内容は、難民、国内避難民に対する人道支援であり、それ以外に教育、職業訓練、国境管理、法制度整備支援等が含まれる」

ポイントは
(1) 目的はふたつ。①ISIL対策、②周辺国支援。周辺国支援とISIL対策は別物とされている。
(2) 国際機関を通じて配分される。相手国政府に現金で直接援助するのではないから、ISILと戦う軍事予算に使われてしまう恐れがなく、また日本の国利国益で支援するのではないことがわかる。
(3) 主な支援内容は人道支援である。
(4) その他として教育や職業訓練という人材育成
(5) その他として国境管理と法制度整備。直接的なISIL対策といえなくもないのはこれだけだ。

このように、ISILと戦う国に対する支援だといっても、ISIL対策としての援助は限られており、ほとんどは人道援助に過ぎないことがわかる。

ではエジプトで披露した安倍首相のスピーチはどうだろう。確かめてみよう。

内容がガラリと変化している。「イラク、シリアの難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのは、ISILがもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発、インフラ整備を含め、ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」

なんと難民・避難民支援がISIL対策ということになっている。またトルコ、レバノンに対する支援がすべてISIL対策だそうだ。トルコとレバノンには各々200万人のシリア難民がいるので、支援のほとんどは難民対策のはずだが、これがISIL対策ということにされてしまった。「ISILがもたらす脅威」という言葉なんぞ閣議決定にはない。閣議決定と全然異なる説明だ。

恐ろしいことに、国際機関を通した援助であることが説明されていない。また「少しでも」と控えめな表現になっているが、英語だとこの言葉がない。(この責任は外務省にある)ISILが触れたのは英語版だ。これは、閣議決定のみならず、日本語スピーチよりもぐっと前のめりな印象なのだ。

以上の結果として、支援の全てがISIL対策であり、国際機関を通さない不透明な支援であると解釈しようと思えばできることになってしまった。

しかも、人材育成が教育や職業訓練であることを説明していない。それどころか英語訳だと「地道な」という表現もカットされている。そのうえ人材育成もISIL対策に含めているというのだから、ISILが兵士の養成だと誤解したのも無理はない。

このように、安部総理は閣議決定と全然異なる説明をしてしまったのだ。この結果ISISは、武器援助のような軍事援助ではないにしろ、兵士要請を含む「ISISの脅威に対抗する支援」だと思い込んでしまい、そのとばっちりで人質ふたりは死の恐怖にさらされ、一人は殺されてしまった。取り返しのつかない失敗だ。

ISILと戦う国への支援それ自体は昨年も実施した(写真)。そのときは「被害の救済」が目的となっており、ISILに向けた対決姿勢はみじんも現れていない。そういった支援には、ISILも抗議していない。今回のISILの卑劣な攻撃姿勢は、安倍総理の舌が誘発したものだ。安部総理はいったいどのように責任を取るつもりなのか。