したたかなタリバン アフガンの混迷

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オバマがアフガンからの撤退を決めたのは全く正しい決断です。平和主義的発想でこう言うのではありません。それは以下の記事を読んでもらえれば、理解できると思います。

米国の軍事力がどれほど強大であろうとも、軍事力ではどうしようもないことのほうが世の中には多いのです。戦争は戦闘機や戦車ではなく人間が営んでいるもので、しかも人間というのは色んな意味で一筋縄ではいかないんだという当たり前の事実を、再確認させてくれる記事でもあります。

ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2010/9
アフガン復興援助で潤うタリバン
http://www.diplo.jp/articles10/1009.html
ルイ・アンベール特派員(Louis Imbert)

ハッジ・モハマド・シャーには運がなかった。彼は2009年に、アフガニスタン北部クンドゥズ近郊で道路建設を開始した。25キロの道路があれば、シャハル・ダラ県の農民たちはクンドゥズの市場へ作物を売りに行ける。建設費は6万3600ユーロで、アジア開発銀行(ADB)が出した。工事が始まるとすぐ、1人のタリバンがやって来て、工事の発注元である県長老議会に対して上納金の支払いを求めた。道路が完成前に破壊されるのを恐れた長老たちは、1万3900ユーロを払った。やがて2人目が来て、長老たちはこれにも応じた。3人目が来た時は、もう金がないと説明した。すると、2010年3月のある日、シャーが町で昼食を取って戻ってくると、作業員たちが武装集団に人質に取られ、10台の作業機械が燃やされていた。被害額は17万6000ユーロに上る。彼は今日も保険の支払いを求めて奔走していることだろう。

クンドゥズ州知事のモハマド・オマルは、あきらめ顔で、一言こう述べた。「タリバンはここではやりたい放題だ。殺人も、拷問も、恐喝も」。 タリバンの指導者がクンドゥズの「影の知事」として、ゆすりの仕組みを広く作り上げているのは、オマルにもよく分かっている。彼らは、道路、橋、学校、病院など、州内の建設工事のほとんどすべてについて、一定の金額を徴収している。アフガニスタンの「復興」が進めば進むほど、タリバンが潤うという構図である。

「オマル師の資金源は何か」という問いに対しては、よく「阿片」の一言で片づけられる。しかし、国連薬物犯罪事務所(UNODC)が2009年末に発表した報告書によると、阿片(課税や密売)はタリバンの収入源の10%から15%でしかない(*)。

(中略)

アブドゥル・カデル・ムジャディディは32歳の技術者だ。現在、彼はラグマン州の山岳地帯に7キロばかりの道路を建設中だ。作業機械の周りには、もちろん警備員が張りついている。驚くべきことに、制服を着用しているのは半数で、残りの半数は民族衣装をまとい、あご髭を伸ばしている。というのも、この半数は5万2000ユーロで工事期間中、地元のタリバン幹部から派遣されている者たちなのだ。ムジャディディは笑いながら言った。「たいした額ではない。もし100人の警備員を雇わなくてはならないとすれば、月に1万6000ユーロかかる。タリバンなら8000ユーロで済み、工事現場は安全だ」。「ハーツ・アンド・マインズ(民意)をつかむ」ことを狙った軍事プログラム、地方復興チーム(PRT)を介して建設費用を出している米国も、こうした事態を放置している。

(中略)

安全な輸送のための出費

恐喝の対象は主に米軍、正確に言えば米軍の下請業者だ。毎月6000から8000の輸送隊が、戦争継続に必要な物資を200前後の基地に運んでいる。品目は弾薬、ガソリン、事務用品、トイレットペーパー、テレビなどだ。輸送の大半は、2009年3月に締結されたホスト国トラック輸送(HNT)という契約の下で、民間企業が担っている。契約総額は21億6000万ドル、2009年のアフガニスタンのGDPの16.6%にも上る。国際治安支援部隊(ISAF)の米国人高官は言う。「下請部門のことは分からない。彼らが安全確保のためにタリバンに金を払っているかどうかは知らない。我々は数十億ドルをつぎ込んでいるが、そのうち数百万ドルが反乱勢力の手に渡っている可能性はある」

ザルグナ・ワリザダはアフガニスタンで輸送会社を経営する唯一の女性だ。米軍が重圧下で働いており、輸送中に攻撃されたトラックへの補償はしないことが、彼女にはよく分かっている。「誰に金を出すべきか。警察か、反乱勢力か、タリバンか。私の関心はそんなところにはない。重要なのは、トラックが通り抜けることだ」。輸送に護衛をつけないことさえある。「なぜそんな必要があるのか。タリバンが安全を保証しているのに」

(中略)

コントロールのきかない札束

タリバンの資金は、必ずしも武力で得たものばかりではない。ドバイやパキスタンを経由して、湾岸諸国から入ってくる多額の寄付金もある。これを扱っているのは、効率的で目立たない金融業者たちであり、中心地はカブールのセライ・シャザダの両替市場だ。(中略)8世紀に誕生したハワラのネットワークを使えば、ごく少額の手数料で、地球の裏側にいる提携業者から、ほんの数時間で数十万ユーロの送金を受けることができる。(中略)このシステムの基本は信頼関係にある。顧客も保証人も顔見知りなのだ。

(中略)タリバン資金のかなりは、ハワラのシステムによって送金されている。

中央銀行の金融諜報室の記録によると、国内に入ってきたサウジアラビア紙幣は2007年1月以降で13億ドルに上る。若い室長のムスタファ・マスディは言う。「この金はパキスタンの部族地域で目撃されている。誰が一体あそこでサウジ通貨リヤルを必要としているのか、考えてもみてほしい。リヤルはペシャワル(パキスタン北部)からハワラを介してカブールに送られ、そこでドルに両替される。ドルは山の中に消え、リヤルは空港からドバイへと、まったく合法的に還流する」

(中略)ある米国高官によると、昨年カブール空港からアラブ首長国連邦に運ばれた金額は、17億5000万ユーロ以上だという。(中略)

アリアナ・アフガン航空の貨物室に、ビニールにくるまれた各種の札束が詰め込まれているという事態は、この国が金融をなかなかコントロールできずにいる現状を示すものでもある。昨年の関税収入は6億3600万ユーロにとどまるが、その倍は徴収できるはずだ。税関の責任者で、若く意欲のある副大臣のサイド・ムビン・シャーは、一部の税関事務所を訪れることができずにいる。警察から身を守るには誰に頼ればいいのかと思案しているからだ。多くの警察官が、勝手に税関吏まがいのことを行っているのだ。ムビン・シャーは、スピン・ボルダクの税関事務所では、タリバンと結託しているらしい軍閥の庇護を受けることを考えている。これでは状況は改善しそうにない。

*──UNODC, Addiction, crime and insurgency : The transnational threat of Afghan opium , October 2010, www.unodc.org