NHKの福島事故検証番組を見て考えた 原発と帝国海軍

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昨夜NHK教育テレビで原発事故の検証番組があった。どうしてこんなに過酷な事故に至ったのか、千年に一度の地震と津波のせいだと東電は言っていたが、本当なのかと思わされる内容だった。

■番組の要約

(1)外部電源喪失
今回の事故は、まず地震で送電鉄塔が倒れ、外部電源が失われたのが発端だった。
送電鉄塔の耐震設計が不充分だったのだ。

(2)非常用電源喪失
外部電源の喪失に備えて、非常用電源(ディーゼル発電機)が2台用意してあった。1台の故障に備えて、2台用意していたというのだが、その仕方がお粗末だった。発電機を2台とも、原子炉建屋ではなく、隣のタービン建屋地下に設置していたのだ。そのため、津波が来るとひとたまりもなく一緒に壊されてしまった。

一緒の場所に置いてあれば同じアクシデントに見舞われて共倒れになる確率が高いのに、何を考えていたのか信じられない人為ミスだと言っていた。

(3)ベントの不具合
電源が失われたため、非常用炉心冷却装置(ECCS)が働かない。冷却できないまま原子炉の圧力が高まり、このままでは圧力容器が破裂するという事態に、東電は高濃度の放射性物質をふくんだ原子炉内の蒸気をベント口から放出しようとした。ところが2つある電動弁の1つが作動しなかった。人力で無理矢理こじ開けて、ようやくベントに成功したそうだ。

これは、運が良かっただけのことだ。一つ間違えれば圧力容器がドカンと爆発して、その後の事故の様相は、いまとは比べものにならないものとなっただろう。ベントが動かなかった理由は、設計やメンテナンスが原子炉本体では考えられないほどずさんなものだったからだという。

■感想

地震後に起きた細かいミスは、計器の見落としや連絡ミスなどたくさんある。こういうことも本来あってはならないのではあるし、検証は必要だが、右往左往している現場でのミスはありがちなことであり、緊急時に正しい判断ができないのはむしろ当然だと思うので、責めてもあまり意味はないと私は思う。

少々のミスならカバーできるような、二重三重の危機管理設計が求められるのだ。だが、上記3点については事故前からの設計ミスである。きっちりと神経を使って設計していれば、見落とされるはずのないミスだったという。

日本の原子力業界としては、事故のない原発を作り、事故を起こさない運用に心がけてきたようだ。だが、その姿勢が、「事故はないだろう」との確信に変わると、事故が起きたときの対策を取ろうにも、「事故が起きるという前提でものを考えるのが非常識だ」というような雰囲気に支配されていたという。いきおい、安全対策に、やる気が起きない。トップの技術者をそんな方面にあてるのはもったいないということになる。

日本の技術者は優秀だから、まともに取り組ませれば、神経の行き届いた設計になっただろうが、現場の雰囲気がこういうことなので、設計はいい加減、設計点検もおざなり、メンテナンスもレベル以下……ということになってしまったようだ。

事故が起きるはずがないことにしてしまうと、事故が明るみになると他の現場に後れを取ったことになる。ここに奇妙な競争心がはたらき、事故などなかったことにするという悪しき習慣が生まれた。安全よりも自分の保身なのだ。精密な技術をもった世界でもトップクラスの技術者なのに、こういうところに腐敗が育っていく。それが人間だといえばそれまでだが、なにか悪夢を見るような心地がする。

■帝国海軍の話

帝国海軍は、作戦前に必ず図上演習(作戦シミュレーション)をやった。実に緻密なシミュレーションだったそうだ。

だがその図上演習で負けると、「そんなことになるはずがない」「ここで空母は沈まないことにしよう」などと手を加え、日本海軍が勝つように修正したそうだ。そしてその作戦が発動されると、なんとシミュレーションどおりに軍艦が沈められ、負けるべくして負けた。陸軍も似たようなものだ。

都合の悪い事態に至らないように手を尽くそうというのでなく、そんなことになっては困るから、そうならないことにしよう……

なんだろう、帝国陸海軍も原子力業界も同じことではないか。国内で最も頭の良い集団のはずなのに、これはどうしたことだろう。頭の悪い自分にはよくわからない。一つだけわかるのは、こんな奇妙な思考法をする人々に、原子力発電などと言う危険なものを扱わせてはならないということだ。