消費税UPを語る前に聞いてほしい話 伊藤千尋さん講演要旨

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「必要ならば政治家は消費税アップをためらうな」
「国民におもねるな」

よく聞く意見です。まあまあ、そういう前に、以下のお話を聞いてから考えて欲しいなというのが、本日の主旨です。国際ジャーナリスト伊藤千尋さんの講演記録です。

税金の話にたどりつくまでにも、結構ながい前置きがありますが、どうしても必要な前置きなのでご辛抱下さい。

■世界で2番目の平和憲法の国

コスタリカという国があるんです。この国は小さな国ですよ。人口400万人。大きさ北海道ぐらい。貧しい国で開発途上国。でも、この国は憲法においては世界の見本のようなことをやっている。

この国は日本と同じ平和憲法を持っています。平和憲法。武器を持たない、軍隊を廃止するというのを憲法にきちんと書いてある。これが平和憲法です。世界で初めてできたのが日本国憲法です。2番目にできたのがこのコスタリカです。1949年にできたコスタリカ憲法は第12条でもって軍隊は廃止するというのを明記している。これが平和憲法です。

しかし、最初に平和憲法を作ったこの日本では、やがて再び軍隊が作られ、しかもその軍隊が世界で3位、4位、ものすごい規模の軍隊になってしまった。憲法の条文とは違うことをやってしまったのです。

でもコスタリカは違う。コスタリカは憲法に書いてある文字通り、軍隊をなくしちゃったんです。治安はどうしてるのか。治安は、犯罪防止のための警察がある。あるいは、国境を警備する国境警備隊がいる。でも、それ以上に軍隊はないです。軍艦一隻も戦闘機一機もないです。

■平和の輸出

(中略)
この国では平和憲法を活かしている。活用している。どう活用しているか。具体的に言いましょう。

1980年代、僕は朝日新聞の中南米特派員をやっていました。当時南米のブラジルに住んでいて──中南米って33の国があるんです──33の国を1人でカバーしてるんです。3年間で僕、飛行機に400回乗りました。で、ぐるぐる回るわけなんです。

当時一番問題があったのは、コスタリカの隣にニカラグアという国があります。この国では内戦をやったんです。アメリカとソ連に成り代わってです。米ソ代理戦争というのをやったんです。政府-それがまあ言ってみればソ連派で、ゲリラ-それがアメリカ派で、戦争をした。同じ国民同士が戦う悲惨な戦争です。そのころ隣りのエクアドルという国も同じく内戦をしていました。その隣のグアテマラという国も内戦していました。都合3つの国が戦争をやっていたんです。

その時に、このコスタリカという国は何をしたか。当時、コスタリカにアリアスという名前の大統領がおりました。その人は戦争をしている3つの国を回って説得したんですね。

彼はこう言った。問題を武力で解決しよう、戦争で解決しようとしても簡単には解決できないよ、戦争は1日延びたら憎しみが更に増す。そんなことよりも話し合いをやる、対話をする、そうすれば必ず解決の糸口が見つかると言って、対話の場を設定したんです。その結果、この3つの戦争は終わってしまいました。

その功績でコスタリカのこのアリアス大統領は、1987年度ノーベル平和賞をもらっちゃたんです。ノーベル平和賞、我が日本にも佐藤栄作さんが受賞しました。その理由は何か。非核3原則というものを守ったから。でも、守ってないことがついこの間みつかっちゃった。あのサギみたいなノーベル平和賞と違います、コスタリカのアリアスさんは。3つの戦争を終わらせちゃった。これはノーベル平和賞に値するじゃないですか。

このアリアスさんが言うには、平和憲法を持ってることは自分の国だけで持って自分の国だけが平和であればいいということではない。まわりも平和にするんだ、平和を輸出するんだ。平和の輸出ですよ。これがアリアスさんの考えたことなんです。平和憲法を持っている者は平和を広げる、そういう役割があるんだ、これをやった。

■尊敬に基づく安全保障

(中略)
それだけじゃない。今この国は何をしているのか。隣のニカラグアという国、ついこの間まで戦争をやっていた国から難民が100万人規模で押し寄せてきます。コスタリカは100万人の難民を全部引き受けているのです。普通そんなことしませんよね。100万人の難民というのは100万人の失業者です。中には犯罪人もいます。普通「ノー」って言うじゃないですか。日本政府なんて1人難民が入ってくるだけで、ぎゃあぎゃあ言っている。100万人ですよ。さっき言ったようにコスタリカは人口400万人。400万人のところに100万人を受け入れるなんて、普通ならどこでもギャッて言うじゃないですか。このコスタリカは言わなかったのです。

(中略)
3つの戦争を終わらせ、国連平和大学を作り、難民100万人を引き受けた。こんな事をしたら、周りの国から、ああこんな国があって嬉しいな、有難いな、あの国は大切にしなければいけないな、こう思われるわけです。

このへんが日本とだいぶ違うところです。日本が戦後この方、コスタリカのようなことをやっていたら、つまり本当に平和憲法を活かして、そしてアジアの戦争を終わらせる、貧困を終わらせる、そういうことをやっていたら、とっくにアジアの国々から尊敬される国になってたはずです。今なってるか。全然なってない。逆ですよ。その逆のことしかやってこなかったからです。しかし、コスタリカは周りの国の為になることを、国を挙げてやってきた。そういうことをすると周りの国から尊敬されるのです。

■コスタリカも戦争をしていた

(中略)
じゃ、なんでこの国に平和憲法ができたのか。聞いてみました。そしたらこの国でもやっぱり戦争やっちゃったんですよ。この平和憲法ができる前の年、1948年。利害の食い違いから国民が真っ二つに別れて戦争をやった。その結果、2000人の人が亡くなりました。

それが終わったときに彼らは考えたんですね。何で同じ国民が殺しあう悲惨な戦争をやってしまったんだろう。二度とこんな悲惨な戦争を起こさないような国の仕組みにしよう。そういう憲法を作ろうと、彼ら自身が考えたのです。そして国会で話し合いました。そもそも何で戦争をやってしまったんだろう。そこから考えました。

その時にこういう議論になったそうです。利害の食い違いはどこの国にでもある。しかしその時、軍隊が武器が……片っ方の人が1人武器を持ちだした。そしたら相手方も武器を持つ。どんどんエスカレートしたわけです。結局、戦争になった。武器があり軍隊があると、必ずそういうふうになってしまう。武器があれば使いたくなる。武器があれば自分が強いんだと錯覚する。その結果その社会をダメにする。こういう発想です。

■貧しいから軍隊を棄てた

(中略)
彼はこう言った。あの時、平和憲法を作ろうとしたとき、われわれは理想に燃えていた。平和憲法を持つ日本に続く平和国家を作ろうという理想を持っていた。それは確かだ。しかし、もう一つ理由があった。もう一つの理由、それは何か。理想に対する現実ですよ。具体的には何か。お金ですよ。1948年まで、この国では国家予算の30%が軍事費でありました。

だいたい、貧しい国開発途上国ほど軍事費の割合って大きいんですね。軍艦とか戦車とか、お金かかるじゃないですか。毎年30%を軍事費に出してたんです。それを考え直してみたんです。今まで私たちは30%を軍事費に使っていたけど、それが社会の発展に役立っていただろうかと。考え直したんです。

社会の発展に軍事費は何の役割も果たしていない。だったら何に金を使えば社会は発展するんだろうかということを、もういっぺんゼロから考え直したんです。

そしたら一番大切なのは何か、それは教育だと。教育こそ社会の発展のもとになる。ひとり一人の国民が自分の頭で考えて、自分で行動できる、そういう国民を育てることが社会の発展につながるのだと。そこに気がついたと言うんです。だったら直ちに軍事費を廃止しよう。廃止で浮いた分を全部教育費にまわそうこういう事を考えたんです。

スローガンが「兵士の数だけ教師を作ろう」(拍手)。すごいじゃないですか。思わず拍手したくなるじゃないですか。さらに「兵舎を博物館にしよう」、「トラクターは戦車より役に立つ」。その通りですよね。驚くことに本当にやっちゃったんです。

■平和による富

これがヨーロッパや日本、アメリカならわかりますよ。中南米開発途上国ですよ。

中南米でいま一番豊かな国はブラジルです。南米ブラジルの大統領ルーラという人、この人、小学校中退です。なぜか。家が貧しくて、小学校の頃から自分の食べ物は自分で稼いでいたんです。小学校2年の時に靴磨きを始めました。以来、靴磨きで自分の食べ物、学校の費用、全部自分で稼いだのです。家は兄弟7人いて、みんな全部食べさせられるわけじゃない。彼は自分のものは自分で稼いだのです。

ところが小学校6年ぐらいになると、もうたくさん食べられないじゃないですか、靴磨きの収入じゃもう食べられないんです。その時、彼は何をしたか。学校をやめちゃうんです。学校をやめて住み込みの丁稚奉公をしました。どこに住み込んだか。日系人のクリーニング屋さんです。小学校6年生の時に日系人のクリーニング屋さんに丁稚奉公した人この人が、今のブラジルの大統領です。これが中南米の開発途上国の現実ですよ。

そのブラジル、中南米の大国ですけれども、その中南米の貧しいちっぽけな国、コスタリカ。それが世界に冠たる教育国家ですよ。

なぜそんなことができたか。

■ここからが本論です!

軍事費をなくし教育費にしたからです。
別に突然石油がとれたわけでもない。
税金を新たに取られたわけでもない。
予算の使い道を変えただけです。
それで世界に冠たる教育国家ができちゃった。

その教育の現場に行くとさらにびっくりするんですよ。
その国は小学校、中学校全部タダです。
ついでに言っておきますと、この国は医療費も全部無料ですから。
医療費無料なんて日本でも実現してないのに、ちゃんと実現してます。

■もっと権利を要求しよう

(中略)
日本で憲法と言うときに護憲とか改憲とか言うじゃないですか。憲法守ろう、変えよう、おかしいと思う。守ろうとか変えようとか言うのは、いっぺんキチンと使ってから、使ってみてそれでおかしいところがあれば変えるとなる。キチンと使ってみたらとても良いからこれを守ろう。これも解ります。でも、そんなに使ったでしょうか。

日本政府は9条を使っていない。日本国民も基本的人権、男女同権、そういうものをキチンと使ったでしょうか。使ってないじゃないかと思うんです。

平和というと、日本では、国が平和でなくては国民は生きていけない、とまず国のことを考えちゃう。国の平和が大切だ。だから軍隊は必要だ。あるいは国のためには国民の100人や200人犠牲になっても当然だ。すぐそういう発想が出てくる。それはなぜか。まずお国が出てくるからです。

世界は違います。世界は一人の人間の平和が保障されている。これが平和の出発点だと。これが世界の標準の考え方です。

いま日本は平和ですか。学校を出て就職口がない。平和じゃないじゃないですか。派遣労働を首になって次の働き口がないその人、平和じゃない。定年になって年金がもらえない、その人平和じゃないじゃない。あるいは沖縄なんて、島ぐるみ平和じゃないじゃないですか。それを放っておいて何が国家の平和か。これが世界の標準の考え方です。

まず、私たちは国家の平和とか言う前に、一人ひとりの生きる権利、一人ひとりの平和が大切にされる、そういう社会こそ、平和なんだということを主張すべきです。それを認めたのが日本国憲法です。憲法は決して9条だけではない。この憲法の良いところを主張して行こうじゃないですか。

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