ソマリアから米海軍が消える日

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合衆国海軍は、ソマリア沖の海賊対策に長くとどまれないそうです。別の方法がないか探していると、フィッツジェラルド米海軍大将が語っています。
*http://www.military.com/news/article/navy-looks-for-new-ways-to-fight-pirates.html

アメリカ軍の上級将校はわりと自由にものを言うのですが、米海軍のサイトによれば、彼はバルカン半島とイラクと地中海におけるNATO軍運用責任者だそうですから、かなり重要な発言だと思われます。

http://www.navy.mil/navydata/bios/navybio.asp?bioID=111

写真:フィッツジェラルド海軍大将

フィッツジェラルド海軍大将は、いますぐ撤退するわけではないがと前置きして、こう語りました。

  1. 海軍をはりつけておくのは高くつきすぎる。
  2. 国際艦隊の他の任務に支障を来す。
  3. 海運会社が自己責任でなんとかしろ。

まあ、正直な感想でしょう。そしてこれらは、海賊対策のはじめから指摘されていたことでもあります。

■海上自衛隊派遣理由のウソ

いま、海上自衛隊を派遣するにあたって語られていたことをここで振り返っておくのは、無駄ではないでしょう。私は自衛隊ではなく、専門家である海上保安庁を派遣すべきだと考えていましたし、いまもその考えは変わっていません。

しかし、政府はつぎのように説明していました。

  • 海上保安庁には遠洋で活動できる艦艇がない
  • 対戦車ロケット砲を装備している海賊に立ち向かえるのは、護衛艦しかない。

どれもデタラメです。
海上保安庁には遠洋で活動できる艦艇がある。

いま派遣されているのは4000トンクラスの護衛艦です。こんな大型船しかソマリアに行けないというのですが、ウソです。ソマリアで操業している日本漁船の99%以上が、100トン未満の船なのです。小さな漁船でも行ける海域に、どうして1000トンクラスの巡視艇が行けないというのでしょうか。海上保安庁には1000トン~4000トンの巡視艇がたくさんそろっているのです。湾岸戦争の後でペルシャ湾に派遣された掃海艇は、500トン程度の木造船ではありませんか。

米国が沿岸警備隊の艦艇を派遣していますが、下の写真のような小型船ですからね~。どの角度から検討しても、巡視船で駄目な理由がありません。

対戦車ロケット砲を装備している海賊に立ち向かう能力が、巡視船にはある。

九州沖で「北朝鮮」工作船と交戦した海上保安庁の巡視船「いなさ」は180トンの小型船だし、「あまみ」は350トンでした。どちらも装甲の薄い船だったので「あまみ」は負傷者を出しました。いまは機関銃弾を防げるよう、装甲が厚くなっています。護衛艦だって直接戦闘を前提に作られていないので、対戦車ロケットに直撃されたら危険なのは同じ事です。揺れる海上で海賊は手で武器を操作しないとなりませんが、巡視船は荒れた海でも正確に標的をねらえる「目標追尾型遠隔操縦機能(RFS)付き20mm多銃身機関砲」を装備しているので、戦力は圧倒的です。そして、戦意を喪失させてからゴムボートで近づくんです。

「海上保安庁の巡視船はダメコン(ダメージコントロール=やられたときの防御・復旧能力)がしっかりしていないから使えない」という、軍オタが言い始めたヨタ話をいまだに信じている人のために、海上自衛隊の訓練写真をのっけておきます。

写真:海上自衛隊。海賊に近づくときはゴムボートを使います。
ダメコン、関係ありません。

写真:海上保安庁も同じです。

巡視船や護衛艦それ自体は、RPGなんか届かない距離を保ちます。どの国の海軍も同じ事をしてます。あったりまえじゃないですか。おらおら、撃って見ろよ~、なんて近づく馬鹿な海軍はおりませんw

■海上自衛隊派遣の非合理性

これらのデタラメに加えて、法的な意味でも海上自衛隊は不適格です。いまソマリアに派遣されている護衛艦には、海上保安官が同乗しているのです。海賊取り締まりに備えて、司法警察業務を行うためにです。こんなややこしいことをするくらいなら、初めから巡視艇を派遣しておけばよい。

さらに、護衛艦は金がかかるんです。護衛艦は軍装しているせいで、でかくて重いし、燃料代が馬鹿にならないし整備も大変です。しかも、護衛艦には海賊退治に不必要な装備がてんこ盛りです。127mm54口径単装速射砲、90式艦対艦誘導弾、3連装短魚雷、OPS-24対空レーダー、2種類のソナー、対電子妨害装置ECM、ミサイル攪乱用チャフ発射機・・・。ヤマハのプラスチックボートみたいなのに乗った海賊を相手にするには、物々しすぎます。こういうものを操作する要員や、コンピュータ要員などが多数乗艦しているので、人件費がかかるし、仕事はないけど派遣されたら特別手当もいります。

対潜哨戒機P3Cも派遣されていますが、せっかく高性能のレーダーを積んでいても、小さな非金属の海賊船が相手だから、目視で監視するしかなく、宝の持ち腐れです。

■海上自衛隊派遣は改憲の一里塚

これに引き替え、乗組員が少なくて必要な装備だけ積んでいる巡視艇の方が、はるかに合理的です。しかも海賊対策は海上保安庁の本務だから、長年のノウハウと実績がある。全員が司法警察官なので取り締まりの法的問題がない。

どう考えても海上自衛隊の派遣は不合理です。ひとつだけ利点をあげれば、あまりにでかいから姿を見せただけで海賊が逃げ出す効果が期待できますが、近頃は米軍艦艇にまで攻撃を仕掛けて来るそうですから、そういう抑止効果もあまりないのかも知れません。

こんな不合理を押して海上自衛隊を派遣しているのは、ともかく自衛隊の海外任務に国民を慣らしておくことだけが主要な目的のように見えます。そしてそのうちに、自衛隊の現状と憲法の規定に矛盾があって現実的ではない、てなことを言い始めるのでしょう。こういう自衛隊の使い方には、私は絶対に反対です。