ソマリアで自衛隊は何ができるのか 海上保安庁の任務・権限・実績

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■海上保安庁を派遣できる根拠

海上保安庁法はその管轄場所を「海上」としているだけで、どこまで及ぶかについては、明記していません。
*http://www.lawdata.org/law/htmldata/S23/S23HO028.html

ここが自衛隊と違うところです。現に海上保安庁は公海上で発生した外国船舶の海難救助を実施しています。フランスから日本まで核廃棄物運搬船を警護しました。このときはテロリストに襲われる危険が指摘されましたが、ちゃんと海保は任務を引き受けて果たしました。

それでは海保はどこまで出ていけるかと言えば、日本の船がいるところまでだそうです(*1)。

■海上保安庁の権限

危ない仕事は自衛隊に任せろという意見がありますが、海上保安庁に対してまことに失礼な話です。海保には海賊取締の権限があり、取締の一次的義務を負っており、当然ながらその意思があり、実績もあるので、それを示します。

海保は公海上の外国船舶での外国人に対する暴力事件に介入した経験があります。「EB・キャリア号」事件です。
*http://150.48.245.51/seikabutsu/2000/00674/contents/172.htm

この事件は海賊事件ではありませんが、海賊事件に類似しているのでその取締が可能なのかも検討対象となりました。その総括がなされていて、結論はこうです。

旗国からの同意の必要はなく、海上保安庁としては、国際法に基づき、海賊を鎮圧することができることとなる。
「海上保安事件の研究―国際捜査編」

その根拠は公海条約第14条、19条にあります(*2)。海上保安庁の活動は取締という司法活動です。海賊退治は司法の領域ですから、海上保安庁が第一義的責任を負っているのです。だから適任なのです。

これに対して海上自衛隊にできるのは軍事行動です。できるのは海賊の一時的制圧だけで、海賊対策には二次的義務しかなく、取締りの権限もノウハウもなく、実績もありません。

■海上保安庁の実績

海保には海賊取締の長い歴史があって、実績は多方面にわたり、それが効果をあげていて、各国から高く評価されています。イエメン沿岸警備隊のアルマフディ作戦局長は、朝日新聞の取材に応じて、海上自衛隊の派遣は「高い効果は期待できず、必要ない。むしろ我々の警備活動強化に支援をしてほしい」と述べています。

警備活動支援はアジアですでに行っています。マラッカ海峡の海賊対策として、日本政府はインドネシアに巡視艇をODAで供与しています。

日本人船長が海賊に襲われた「アロンドラ・レインボー号」事件以後、海上保安庁はインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポールと二国間共同訓練を毎年実施しています。2007にはマラッカ海峡で初めて日本、タイ、マレーシア3カ国の海上保安組織による海賊対策合同訓練が行われました。

合同訓練の他に、インドネシア、フィリピン、マレーシアへは各国の海上保安組織の制度・整備支援、人材育成を目的とした専門家の派遣、タイからは海上保安大学校への留学生受け入れなどの支援を行っています。

2006年には日本の主導でアジア海賊対策地域協力協定が発効し、情報共有センター(ISC)が設立されています。これには日本、ASEAN10カ国、中国、韓国、インド、スリランカ、バングラディッシュの16カ国が参加しています。

これに対して。海上自衛隊には部隊を派遣できる根拠法がありません。取締りの権限はありますが、ノウハウがありません。実績は皆無です。

このようにどこから見ても海上保安庁が適任であり、海上自衛隊の派遣にこだわる理由がないのです。

*1:「日本国の沿岸水域といっても公海を含んでおるのでありまして、極端なことを言えば、メキシコまででも行くわけでありますが大体沿岸水域というのは、その国の一つの勢力と申しますか、船の大体多く行っておる所とか、大体そこまで漁業に出ておるとか、そういうふうに社会通念から考えてみて、公海を含めて大体勢力の及ぶ所であると考えております。」(衆議院治安及び地方制度委員会議録第20号、昭和23年4月2日)

*2:公海条約第14条
「すべての国は、可能な最大限度まで、公海その他のいずれの国の管轄権にも服さない場所における海賊行為の抑止に協力するものとする」

公海条約19条
「いずれの国も、公海その他いずれの国の管轄権に服さない場所において、海賊船舶、海賊航空機又は海賊行為によつて奪取され、かつ、海賊の支配下にある船舶を拿捕し、及び当該船舶又は航空機内の人又は財産を逮捕し又は押収することができる。拿捕を行つた国の裁判所は、課すべき処罰を決定することができ、また善意の第三者の権利を尊重することを条件として、当該船舶、航空機または財産についてとるべき措置を決定することができる」