【北方領土】筋道の立った交渉を望む

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1292288463&owner_id=12631570

<報道>
日ロ首脳 領土解決へ交渉加速
*http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=969008&media_id=4

これまでの交渉と同じことを繰り返しても、多分うまくいきません。
まるで筋論が立っていないし、大義名分がはっきりしていないからです。
ちょっと基本的なことからおさらいしながら、国際社会で通用する論理を考えたいと思います。

■返せと言うなら千島全部を

北方領土は日本の固有領土だといいますが、日本はサンフランシスコ条約で千島を放棄しています(末尾注1)。それを撤回して北方領土を返還せよというなら、四島ではなく千島列島全島を返還せよと言わなければ筋が通りません。

また対ロシアとの交渉だけでは足りません。サンフランシスコ条約の千島列島放棄条項(第2条C項)の破棄を、条約批准国に通告しなければならないからです。

各国に協力を求めた場合、その見返りにいったい何をどれほど要求されるでしょうか。ちょっと恐ろしいものがあります。なにせ批准国は全部で46カ国もあるのです(末尾注2)。

■四島返還論の誤り

日本は全千島ではなく、四島を返せと言っています。
四島とは歯舞(はぼまい)・色丹(しこたん)・国後(くなしり)・択捉(えとろふ)のことです。
四島を他の島々と区別して論じることに、何か正当な根拠があるのでしょうか。

日本政府の主張を確かめましょう。
政府の主張は外務省「北方領土問題に関するQ&A」より。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/hoppo/mondai_qa.html

<政府主張>
北方四島はいまだかつて一度も外国の領土となったことがない我が国の領土だ。

これは正しいのですが、こう主張する根拠をサンフランシスコ条約で放棄しているのです。
同条約にはこうあります、「すべての権利、権原及び請求権を放棄する」と。
「かつて一度も外国の領土となったことがない」というのは「権原」にあたりますが、それも放棄しているのですから、いまさらこんなことを言っても無駄です。

<政府主張>
北方四島は千島列島ではない。

しかし1869年に蝦夷地を北海道と改称したとき、国後島・択捉島は「千島国」とされていますから、この言い分には根拠がありません。

<政府主張>
放棄した千島列島とは、北千島のことである。

南千島は千島列島ではないのだと。だから南千島に属する四島は放棄していないのだと。

しかしこれは変です。北千島・南千島という区別は、サンフランシスコ条約に記されておりません。そこには「千島列島」とだけ書いてあるのです。まして南千島は千島ではないと言える根拠など、国内史料のどこを探しても見つかりません。

こういうことですから、北方四島だけを他と区別して論じるのは日本の勝手な都合だと言われれば反論に窮するのではないでしょうか。

■二島返還論について

ロシアは二島なら返還に応じると言ったことがあります。

歯舞諸島・色丹の二島が他と区別されるのは、地理的に見て、そこが明らかに北海道の一部だからです。その二島は地形学的に千島ではありません。歴史的にも歯舞・色丹島の二領域は北海道です。サンフランシスコ条約で放棄した千島に含まれないと言える根拠があるのです。

ですから、ここについては明らかにロシアの不法占領だと主張できます。ロシアもここを突かれると弱いので、二島返還なら応じようと言ったのだと思います。

■結論

全千島を返せと言っても無理だろうから近くの四島だけでも……などと、まるで八百屋で大根を値切るような交渉が、厳しい国際社会で通用するのでしょうか(通用してくれれば有り難いのですが、まず無理でしょう)。

まずは北千島・南千島という日本国内でのみ通用する姑息な理屈を捨てさらねばなりません。南千島を返せというなら、同じ理屈で全千島の返還も求めねば筋が通りません。そうするには、米国を初めとする連合国にサンフランシスコ条約の千島条項破棄を通告しなければいけません。

そこまでできないというのなら、千島の返還ではなく北海道の一部に対する不法占拠を訴えて、歯舞・色丹二島の返還をロシアに要求するのがいいと思います。これならサンフランシスコ条約を破棄する必要もありません。

■追記

国後・択捉が千島ではないという日本政府の主張の根拠を示して下さった方がおられました。
*http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1292220416&owner_id=13371856&comment_count=13

その言い分を検討してみましょう。
その前に、千島列島を日本側は千島といい、ロシア側はクリルと呼んでいたことを前置きしておきます。

  1. 「竹田条約」で日本はロシアと国境を確定した。それはエトロフ島とウルップ島の間だ。(エトロフ島以南が日本、ウルップ島以北がロシアです。)
  2. 「千島・樺太交換条約」でロシアと日本はロシア領クリル列島と日本領樺太を交換した。
  3. そのクリル諸島とは1で示したとおり、ウルップ島以北の島々を指す。
  4. サンフランシスコ条約の英文は千島列島をクリル列島と書いている。
  5. クリル列島とはウルップ以北のことだから、エトロフ以南は含まれないはずだ。(よって国後(クナシリ)・択捉(エトロフ)は、サンフランシスコ条約で手放したクリル=千島ではなく、日本領土である。)

これは領域の定義の問題ですね。

この主張が成り立つためには、2の「千島・樺太交換条約」のいうクリル諸島と4の「サンフランシスコ条約」のいうクリル諸島が同一領域であることが必要です。しかしそれがそうではないのです。

1946年1月29日、GHQは日本の行政区域を定める指令(SCAPIN-677)を出しました。この指令に言う「クリル諸島」には、国後・択捉を含んでいるのです。サンフランシスコ条約がSCAPIN-677指令に基づいているのは明らかですから、国後・択捉は放棄した千島に含まれているのです。ですから「千島・樺太交換条約」など、別の定義の条約を持ち出しても無意味なのです。

では私が北海道の一部だという歯舞・色丹はどうでしょう。

この二領域も、同じ指令によって行政権を失いました。しかし、これらは「クリル・アイランズ」とは別に「ハボマイ・アイランド・グループ」、「シコタン・アイランド」と表記されており、クリル諸島に含まれていません。サンフランシスコ条約締結にあたって、米国は「クリル・アイランズにハボマイは含まれない」と演説しています。ですから本来ならば歯舞・色丹はサンフランシスコ条約締結と共に日本の施政権が復活しなければならなかったのですが、ソ連の不法占領が続けられたのです。


注1:サンフランシスコ講和条約
第二条【領土権の放棄】
(a)日本国は、朝鮮の独立を承認して、斉州島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。
(b)日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。
(c)日本国は、千島列島並びに日本国が千九百五年九月五日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。
http://www004.upp.so-net.ne.jp/teikoku-denmo/no_frame/history/kaisetsu/other/tpj.html#countries

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注2:サンフランシスコ条約批准国

アルゼンティン(ARGENTINE)
オーストラリア(AUSTRALIA)
ベルギー(BELGIUM)
ボリヴィア(BOLIVIA)
ブラジル(BRAZIL)
カンボディア(CAMBODIA)
カナダ(CANADA)
チリ(CHILE)
コスタ・リカ(COSTA RICA)
キューバ(CUBA)
ドミニカ共和国(DOMINICAN REPBLIC)
エクアドル(ECUADOR)
エジプト(EGYPY)
エル・サルヴァドル(EL SALVADOR)
エティオピア(ETHIOPIA)
フランス(FRANCE)
ギリシャ(GREECE)
グァテマラ(GUATEMALA)
ハイティ(HAITI)
ホンデュラス(HONDURAS)
イラン(IRAN)
イラク(IRAQ)
ラオス(LAOS)
レバノン(LEBANON)
リベリア(LIBERIA)
メキシコ(MEXICO)
オランダ(NETHERLANDS)
ニュー・ジーランド(NEW ZEALAND)
ニカラグァ(NICARAGUA)
ノールウェー(NORWAY)
パキスタン(PAKISTAN)
パナマ(PANAMA)
パラグァイ(PARAGUAY)
ペルー(PERU)
フィリピン(PHILIPPINES)
サウディ・アラビア(SAUDI ARABIA)
南アフリカ連邦(SOUTH AFRICA)
スリ・ランカ(SRI LANKA)
シリア(SYRIAN ARAB)
トルコ(TURKEY)
グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国(UNITED KINGDOM)
アメリカ合衆国(UNITED STATES OF AMERICA)
ウルグァイ(URUGUAY)
ヴェネズエラ(VENEZUELA)
ヴィエトナム(VIET NAM)