「NATO軍の反省」に思うこといろいろ

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■戦争は愚行の集大成

戦争はそれ自体が愚行であるが、具体的な作戦の中身はもっと愚かしい。実際の戦争がいかにヘマ、思い違い、予測はずれ、当てはずれに満ちたものか、戦記物をひとつでも読めばよくわかるだろう。

将軍や現場指揮官の頓珍漢ぶりは、何も日本軍のインパール作戦などを引き合いに出さずとも、大成功だったと評価の高いノルマンディ上陸作戦でも同じことだ。

空挺部隊は降下地点を間違えて海に落ちおぼれ死んだ、重さを考えずに荷物を積んだので上陸用舟艇が多数沈んだ、浮かぶはずの水陸両用戦車が浮かばなかった、集合時間がずれて戦車が間に合わず歩兵がやられ放題になった、敵の反撃で前進が止まっているのに後続に停止命令を出さなかったばかりに上陸地点が大混雑して死者を増やした……などなど、次から次へとひどいヘマを起こしている。上陸地点を間違えたので敵がおらず、おかげで進撃が早かったなどという、ドラマの脚本家なら絶対に書かないようなご都合主義的な成功もあった。

こういった大ボケのせいで死ななくてもよい兵士が簡単に殺されてしまうのが、戦争というものだ。

なんでこういうことを書くかというと、例のリビア作戦についてのNATO航空戦力の反省ぶりが、いかにも戦争だなあと思ったからだ。

*http://www.aviationweek.com/aw/generic/story_generic.jsp?channel=dti&id=news/dti/2011/12/01/DT_12_01_2011_p34-390579.xml&headline=Libya%20Reveals%20NATO%20Readiness%20Highs%20And%20Lows

■やり始めてから「油がない!爆弾がない!」

NATOと言えば、この何十年も作戦を繰り返してきた。

イラクの空域封鎖、湾岸戦争、イラク戦争、アフガン戦争、その他……なのに、リビアでやってみて、いまさらお粗末ぶりに気付いたのだそうだ。

(1) 英仏の給油能力がさっぱりだった。
(2) 敵防空網の制圧の能力がなかった(といっても貧弱な対空機関砲程度のものしかリビアは持っていなかったが)。

(1)と(2)は米軍がいないと何もできなかったという。

(3) 救難捜索用機材がなかった(そのため、リビア兵のいないサハラ砂漠が緊急時の着陸地点となった)。
(4) 偵察機用レーダーが足りず、引退寸前の英軍の旧式レーダーを引っ張り出した。
(5) 思いのほか誘導爆弾を使いすぎたので数が足りなくなった。
(6) 英仏だけで作戦航空機は300機もあるのに、実際には常時25機程度しか揃えられなかった(運用の不手際でパイロットや部品や燃料が必要なときに必要な場所に必要なだけ届かないなどで遊んでいる機体が多かった)。

これまでどれほど米軍に頼り切っていたんだろう。

でも、いまあげた欠陥は、ヨーロッパ本土で作戦をするなら何と言うことはない。よそに出掛けていって戦争しようとするから、具合が悪いのだ。遠征作戦というのは難しいものだなと改めて思う。

てことは、中国や「北朝鮮」がいくらたくさんの武器を持っていても、外地で運用するノウハウはなかろうから、あまり脅威ではないということでもある。旧日本軍は西南戦争と日清戦争で、多大の犠牲と引き替えに遠征ノウハウを築き上げた。西南戦争は内戦だし、清国軍は中世の軍隊だから練習にうってつけだった。それで身につけた遠征ノウハウが、その後の日本のためによかったのかどうなのか、難しいところだ。

■非常時にうろたえるのは当然ともいえる

さてこういうのは、戦争に限らない。

計画的に準備する戦争でも現場はうろたえるのだから、計画できない災害だともっと混乱する。緊急事態に遭遇すると、大混乱の中で、人や組織は考えられないようなヘマを連発するのだ。

震災や原発事故でもそうだが、非常時に組織は必ずきちんと動くものだと考えていると、とんでもない。あるはずのものがなかったり、伝えてあるはずのことが伝えてなかったり、発表遅れ、連絡不足、打合せ不足はきりがないほどあっただろう。

それがいいことだとは言わない。ミスは減らすべきだから検証が不可避だ。現場の混乱を高みの見物している側が、ミスを槍玉に挙げることも必要だ。言われる方は頭に来るだろうが、現場を知っていれば採点が甘くなるので、ある程度無責任に指弾するだけの立場というものも必要なのだ。それでもミスは不可抗力なのだが。

だが、単純なミスを材料に「それは○○の陰謀だ」とか「意図的な隠蔽だ」などと見当はずれを吹聴するのは感心できない。真に受ける人が多いと、混乱をさらに助長することになるからだ。生き死にのかかった事態だと、デマや陰謀論の横行は致命的だ。

てことは、こんなにデマに乗せられやすい日本が侵略されたら、敵の宣伝の前にひとたまりもない?

う~ん、政府をはじめ日本の安全を気にする人たちは、自衛隊の装備を増やしたり米軍にシッポ振ったりする前に、原発事故に関して自分たちがなんで信用してもらえなかったのか、それを検証した方がいいかも知れないな。