TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)(2)

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TPPは国と国との交渉だが、じつのところその動機は一部の私企業の利益追求であって、国は代理人にすぎないのではないだろうか。

アメリカの要望に応えてTPPに加入しないと輸出企業が大変だという。が、考えてみればアメリカ国内で日本車が売れようが韓国車が売れようが、輸入車に変わりはないのだから、アメリカにとってはどちらでもいいはずだ。日本がTPPに加入しようがしまいが、製品貿易についてはアメリカには痛くも痒くもないに違いないのだ。

ではなぜアメリカが日本に強く自由化を迫るのかと考えれば、自分の強い産業分野について、もっと自由に日本に進出したいからだろう。

金融とか農業がその筆頭だ。TPPに加入すれば、たとえば「(独)郵便貯金・簡易生命保険管理機構」の340兆円の使途について自由化が求められるだろう。また、米国の持株会社が日本にもっと進出すれば、賃金なんか上げていないで株主配当を寄越せとうるさくなるに違いない。彼らから見れば、日本は甘い蜜のしたたるおいしい国であるに違いない。

企業とは何だろうと考える。税金が高いならもっと安い所に出て行くという。給料が高くても安い所へ出て行くという。企業は国のことなんぞ考えてはいない。ゼニ勘定だけで動いているから、自分が出て行った後の地域がどうなろうと、後は野となれ山となれだ。まあしかし、それは経済原則がそうさせているのだから仕方がない面も、あるにはある。

資本主義が成立した初期の頃はまさに自由放任経済だったので、激しい格差社会だった。一部の富める者がますます富を増やし、多数の貧しいものはますます貧しさに追いやられ、初期のイギリス産業社会においては工場労働者が劣悪な労働環境におかれて、平均寿命が著しく低下したという記録があるほどだ。中には人道的な経営者がいたかも知れないが、一社だけで労働条件を改善しようとすると競争に負けてしまうから、なかなか意のままにならない。それが経済原則というものだ。

そこで、国が音頭をとって一斉に制度や労働慣習の改善に取り組むよう強制すればいいじゃないかという考えが起こり、今日までその方法で社会改善が図られてきた。しかしいまや企業は一国内の存在ではなくなったから、国全体で社会改良しようとすると国を逃げ出してしまう。そうされては困るというので、法人税を下げたり、派遣労働を解禁して人件費を抑制したりと、国は企業のために至れり尽くせりだ。まるで別れたいという彼女の気を引くためにあの手この手を尽くすもてない君みたいなもので、企業はもてない君の足元を見てやりたい放題しているわがまま娘のようだ。

結局のところTPPとは、わずかに残った政府の規制力さえも根絶やしにしてしまう一里塚かも知れない。国なんか企業にとっては利用する対象であって、忠誠を捧げる相手ではない。利用はするが、規制するなら不用というわけだ。こうなると全世界で一斉に企業を規制しなくてはならないだろうが、主権国家に規制を強制できる国際統一権力など存在しない。

国だって当てにはならない。国には国民共同体の側面もあるけれど、運営しているのは一部のエリートだから、企業はその潤沢な資金で彼らをたちまち企業の代理人へと変身させることができる。日本の総理大臣もアメリカ大統領も、ときどき自国企業のセールスマンになるのをニュースで見るものね。

ところで、かつて対日赤字が問題になっていた日米貿易交渉でアメリカは何と言っていたのか、もう忘れたのだろうか。自由競争のなかで発生した対日赤字だったのに、アメリカは、二国間収支は均衡させるべきであり、それが公正な貿易というものであって、日本ばかりが黒字なのは納得できないと言っていたではないか。いまのアメリカ政府に聞かせてやりたいものだ。TPP交渉で日本が当時のアメリカの言い分をそのままぶつけたらどうだろう、きっとアメリカは違うことを言うに決まっている。

世界経済の中では収支の不均衡が発生するのが常態である、二国間収支を均衡させようとする議論は、国際分業の長所を否定し、自由貿易のメリットを放棄することにつながるため不適当である、なんてね。

アメリカの言い分は正義ではないし、貿易の常道でもない。ただアメリカの力が圧倒的だから、いやでもその言い分を聞かなければならない力関係の中で、その場その場で自分の都合の良いことを主張しているだけではないか。いまはアメリカが自信を回復しているからTPPを実施しようと言っているが、他国もバカではないし怠け者でもないから、アメリカの攻勢に耐えていずれは正面から対抗する力をつけるにちがいない。そうなれば、アメリカはまた別なことを言うはずだ。

自由放任主義は世界経済のバランスを崩すものであり、環境破壊にも無力だから、適切な管理をしなければ互恵的貿易関係が危機にさらされるばかりではなく、地球の未来さえも脅かすものである、とかなんとか。いまから目に見えるようだ。理屈と膏薬はどこにでもくっつくのだ。

ではTPPに加入しなくてもよいのか、貿易競争で負けてしまうではないかと産業界は声を揃える。しかし貿易競争に勝つとはどういうことなのか。仮にTPPに加入することで輸出が増えれば、それは直ちに日本の競争力が回復したとの評価につながるから、円高をもたらすだろう。そうすると名目的に輸出が増えても企業利益が増えないという意図しない結果に至る。この事態はすでに日本は経験済みだから分かるが、これまでどおり円高回避のために製造業が海外に移転して国内産業が空洞化し、それが失業を生み人件費が低減するというスパイラルが続くだけであって、国民経済的にはあまり歓迎すべきことでもないような気がする。

それならば何かいい策があるのか、農業を壊滅させずに自給自足体制を整え、企業が国外逃避しないような案はあるのかと問われても、答えに困る。そんなうまい話があるならとっくにどこかでやっているはずだろう。しかしそんな話は聞いたことがない。

考えられるのは米国との自由化協定は得にならないから棚上げして、アセアン各国とだけ個別にFTA協定を結んではどうかということぐらいだが、これも弥縫策に過ぎない。

いっそ泣く子と地頭……ではなくて財界とアメリカには勝てないと腹を決めて、お説ごもっともとうけたまわることにしようか。

ただし幸いなことに日本はGDPに占める貿易の割合が比較的低い国で、TPPに加入しなくても直ちに経済が破綻するといった状況にない。だから話し合いをしても結論はできるだけのらくらと引き延ばし、その間に金融や農業を含む国内産業基盤をできるだけ整備して、米国と渡り合えるような体制を整えるというのが精一杯の方策ではなかろうか。韓国の例でいえば、FTA協定を結んでも、分野によって長いものでは10年ぐらいかけて自由化していこうというペースだ。

アメリカにとっては現状をそのまま継続するだけなのだが、受ける方は国内産業がガラリと様変わりするかも知れないほどの出来事なのだ。すでに見たように、アメリカの要求が特に義に適っているというものでもないし、ただ儲けたいために言っているのだから、その鼻息を引っ込めろとは言わない代わりに少々お待ちいただいても、失礼にはあたるまい。