反所得再分配論の謬説を正す 格差社会と経済の関係について

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前の日記
「<パート・派遣>年収200万円以下74%…厚労省調査」

有期労働者 年収200万以下74%  * 衝撃的なニュースだ。 しかも、 企業調査では、有期労働者を雇っている企業の79.7%が、有期労働者なしでは「事業が成り立たない」と回答。前回(53.8%)より依存度を高めている。 会社も大変なんだ...

に、シュウさんの面白いコメントがつきました。

シュウさんが所得の再分配(貧しい者にもっと社会の富を配分しよう)を唱えたところ、つぎのような反論を受けたというのです。

1.努力をして高い能力を身に着けた者が、高い付加価値のある仕事をして、高所得を得ているのに対し、非正規労働者は、結局ルーティンの仕事しかできないので、所得の格差があることは当然である。もし、富の再分配が大規模に行われるならば、努力する人などいなくなるだろう。

2.富の再分配をするとしても、税を通じてするのか、賃金規制によってするのかで問題が違ってくる。所得税と社会福祉を通じてするならば、高い所得税を払う高所得者は、働く意欲をなくすだろう。努力して高い能力を得ても、日本で働くことはなくなるかもしれない。賃金規制によって、たとえば「同一労働同一賃金」制度の導入によって、非正規雇用者にも必要以上に高い賃金が支払われるならば、海外企業との競争ができなくなるため、優秀な企業の海外移転が進むだろう。

要するに、高所得者にたかる制度を導入すると、高所得者になろうとする者も企業も海外に出て行ってしまい、日本は経済衰退国になる、というわけです。

私は人間ちょぼちょぼというのが信条です。
楽して儲けたいというホンネは高額所得者も低額所得者も一緒だと思っています。
さて、これを前提に、所論を検討してみましょう。

■「非正規労働者は、結局ルーティンの仕事しかできない」という主張について

「非正規労働者は、結局ルーティンの仕事しかできない」というのが間違いで、正しくは「非正規労働者に、ルーティンの仕事しか与えていない」のです。日本社会が人的リソースを有効活用できていないのです。

経済社会は、本来ならばイノベーションを通じて活性化し、発展していくのが健全なあり方だろうと思います。人類史を通じて、いつの時代もそういうことが言えます。

しかし怠け者の支配者は、失敗もあり得る不確実なイノベーション投資よりも、確実に利益を保証してくれる手段として、人件費削減を選択します。これも人類史にいつでも見られる現象です(典型的なのが奴隷経済です)。

派遣制度は怠け者の資本家にとって格好の利益確保ツールとして登場しました。楽して儲けたいのは誰しも同じですから、怠け者でない経営者も、このツールを使わない手はありません。

こうして日本は、全国一斉に、低賃金社会に変貌してしまいました。給料を減らせばもうかるのだから、なにもわざわざ不確実な技術革新に投資する必要はありません。こうして派遣制度が一般的になると、その分だけ技術革新がおろそかになり、いまや日本は、アジアの中でさえ技術的優位性を喪失しつつあります。これが国際競争力の低下を招いている一因です。

技術革新が低調な時代にイノベーションを担う人材雇用が発生しないのは当然で、せっかく有能な人材がいても、派遣労働で糊口を凌がざるを得ないのです。中には新天地を求めて中国などへ流出した人材もいますが、彼らの技術がいま日本を脅かしているのだから、自業自得というか、皮肉なもんです。

■「所得再分配したら日本は国際競争力を失う」という主張について

人件費が高いと製品価格に転嫁せざるを得ず、それが原因で国際競争力を失うというのは、現実を一面しか見ない暴論です。

もしも人件費削減が国際競争力を高め、経済を成長させるという分析が正しいのならば、賃金の低い国ほど経済成長するはずです。主要各国の中で、日本の賃金上昇率の低さは際だっています。

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では日本の成長率はと見れば、主要国の中で最低です。
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たしかに格差社会である米国や中国、アセアン、インドの伸びはすごいものですが、同じ格差社会である韓国は低迷しています。高所得税・高い累進課税・高福祉を維持しており、派遣労働者にも「同一労働・同一賃金」を保証している国が多いユーロ圏は、なかなか健闘しています。これでは人件費と経済成長率に因果関係があるどころか、相関関係すら見いだせません。経済はそんなに単純なものではないということです。

そもそも日本の資本家は国際競争力を維持したいのでしょうか。そういうのは、もしも国際競争力を高めたいのなら、人件費を抑える以上に企業配当率も下げなければ理屈に合わないのですが、下記の表に明らかなとおり、下がっているのは人件費だけで、株式配当率(資産家の取り分)と企業収益は凄まじい伸び方をしているからです。

国際競争力を維持するという口実で労働者に我慢してもらう一方で、自分たちだけはちゃっかり利益を確保しているのです。
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富の再分配を低成長の理由にするのは、まさしく「怠け者」で「楽して儲けたい」経営者の言い訳のように思えます。

けれども安定した生活が制度的に保障されてしまうと、「楽して儲けたい」労働者は勤労意欲や技術革新の意欲を失ってしまい、保守的になり、国民経済衰退の要因となるのは、たしかだと思います。

労働者も経営者も意欲的に働くような所得格差の最適バランスというのは、検討されて良いだろうと思いますが、おそらく最適ポイントは現状よりも格差のない水準だろうと思います。なにせ日本経済が最も活力のあった時代は、いまより法人税が高く、所得税も累進度がはるかに高かった時代なのです。法人税が低くなればなるほど、累進課税が緩めば緩むほど、日本経済は元気を失ってきた……見方によれば、そういえなくもないのですから。

以下は余談。

役員報酬に高額の所得税を課したところで、資産家はちっとも困りません。役員報酬などは彼らの収入のほんの一部に過ぎず、ほとんどは株式配当や地代で稼いでいるのですから。

もうひとつついでに言えば、私たちサラリーマンにとっての生活費支出は、彼らにとっては「計上経費支出」であり、節税の手段でしかないのも、みなさんがよくご存じのとおりです。