「想定外」という言葉の意味

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福島原発の事故はシビアアクシデント(過酷事故)だったといいます。シビアアクシデントの定義は、「設計上想定していないことが起こること」だそうです。福島では、「想定外」のことが起きたのだと。

「設計上想定していないことが起こった」というのを、「考えが及ばないことが起きた」と解釈し、それを想定外と言うのなら、あらゆる事故はすべて「想定外」のはずです。

可能性は考えられるが、何の対策もできないから想定の外に置くというのが、本来の意味の「想定外」なんだと思います。たとえば隕石の落下とか、弾道ミサイルによる破壊とかですね。

日本の原発については、平成4年に保安院が「シビアアクシデント(過酷事故)は工学的には現実に起こるとは考えられないほど発生の可能性は小さい」とし、現場でもシビアアクシデントは起きないから想定しなくてよいと指示されていたそうです。

斑目委員長も安全委員会の安全審査指針について、「安全審査指針類というのは、基本的には、シビアアクシデントを含まないといいますか、多重防護でいうところの第3層までの考え方を基本的に書いたものであるというふうに考えてございます。それで、これまではそれを超える事象、いわゆるシビアアクシデントについては、これは事業者自主であるということを原子力安全委員会としては言ってきている」と述べています。

「想定外」と言うけれど、本当に真剣にあらゆる可能性を検討したけれども想定が及ばなかったのでもなく、そういう事態は「想定されていた」けれど、監督庁としては「起きないことにして」おり、対策を電力会社の自主的な判断に任せていた。

してもしなくてもよいことを、民間会社がわざわざ費用をかけてするはずがない。だからシビアアクシデントを「設計上想定していなかった」。ところが、それが実際に起きてしまった。福島第一原発事故の場合、これは本来の意味の「想定外」とは言えないのではないでしょうか。

想定外にも大きなものから小さなものまであります。

原発本体は地震に耐えられる設計にしてあったけれど、外部電源の喪失は原発敷地外で起きました。地震により、山の中で送電鉄塔が倒壊したのです。これは考えが及ばなかったという意味では想定外でしたが、想定していないのが不思議なほどの初歩的不備ではないでしょうか。

しかし原因が何であれ、外部電源が喪失したときの対策は想定されていました。非常用発電機がそれです。ところが福島第一原発1~6号機の非常用発電機13台のうち、10台が地下1階に集中していたので、それらが全て波をかぶって使い物にならなくなってしまいました。考えが足りなかったという意味では、これも想定外です。

しかし、津波の勢いが強くて発電機が破壊されたのではありません。なぜなら、1階に置いてあった発電機は助かったのですから。発電機が使えなくなった原因は、水に潜ってしまったからです。もっと低い津波でも、堤防をちょっと乗り越えれば、地下の発電機は水浸しになって動かせなかったはずです。発電機を地下に置いたのは米国の設計がそうなっていたからで、それは米国が竜巻対策のためにそうしていたのです。

たしかに竜巻対策なら地下に置くのが安全ですが、日本では役に立たない対策です。非常用電源が喪われた本当の原因は、意味も考えずに言われたことをただマニュアル通りに忠実にやっていたという、ロボット並の日本側の姿勢にあったのだと思います。これも想定外というにはあまりにお粗末な施策でした。

しかしそういう時の対策も、一応はされていました。外部電源車の投入です。炉心が溶け出すまでに電源車で応急に冷却用ポンプを回し、その間に外部電源を復旧させるという対策です。この対策が役立たなかったのは、電源車のプラグがポンプのコンセントに合わなかったからでした。想定外です。しかし電源車を購入してから訓練もしないでいて、プラグの形が違うことに気づかなかったことを「想定外」ですませるわけにいきませんよね。

発電機が地下になければ、あるいは電源車のプラグが合っていれば、おそらく炉心溶融に至らず、事故は終息していたでしょう。確かにあの巨大津波は想定外だったかも知れませんが、事故の原因は津波の巨大さにあったのではなく、大小の不手際にあったのだから、本来の意味での「想定外」ではなかったのではないでしょうか。

そういう意味で、シビアアクシデントの定義を「設計上想定していないことが起こった」と定義するのは、何かが足りない気がします。

こんなことでは、同じような失敗をまた繰り返しかねません。福島は風向きのせいで85%の放射性物質が海側に運ばれるという奇跡があって、居住地域の被害が少なくてすみました。しかしそんな都合のよい奇跡は、2度も起きないと考えるべきです。