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沖縄強制集団死の実態が深く掘り下げられた結果、軍の強制を否定する論拠はたった一つになってしまった。
「命令文書がない」
この一点に、否定論は集約される。証言があり、状況証拠がたくさんあっても、「命令文書がない」とだけ言っていれば、それで強制を否定できたように思っている否定派のなんと多いことか。逆に言えば、ここを突破すれば軍の強制を否定する理屈が何もなくなるということになる。
しかしなかなかこれが一筋縄でいかない。思うに、軍の強制をいうのに、「命令文書」など必要なのか。数種類の「軍命令否定論」に沿って、今回はそのことを考えてみたい。
■方面軍(沖縄第32軍)の正式命令文書がない
「義勇兵役法」が作られる以前から、沖縄全体で義勇兵制度が実施されていた。島部では方面軍の文書命令なしに、小学生が動員されている。上級の命令文書がなくても、現に制度として実施されているのだ。命令文書がなくても強制はできた。文書がないから命令がなかったとは言えない。
■軍の方針と無関係に下された部隊長命令は個人命令であって、軍命令ではない
戦闘中の部隊長命令は軍命令だ。仮に軍の方針に反した命令を隊長が下し、それで兵が戦死すればどうなるのか。バカな隊長が誤って下した命令は、隊長が個人で責任をとるべきなのだろうか。そうではない。その死は公務による戦死とみなされ、政府(軍)が責任を負い、戦死手当が支払われるのだ。
兵は隊長命令に絶対服従せよと教育される。そうでなくては、下級の者は隊長の命令が正しい命令かどうか、いちいち上級に確認しなければならないことになり、とても戦えたものではない。それゆえどんな命令でも隊長命令は軍の命令だとされており、その責任は軍が負うのだ。
■自決の指示は村長や助役から下されたから軍命令ではない
村長や助役の命令は軍命令だ。昭和20年6月22日、天皇の詔勅により『義勇兵役法』が発布され、その日のうちに施行された。15歳から60歳までの男子と、17歳から40歳までの女子全員を軍に編成するという法律だ。義勇兵役制度は、「本土決戦」のための国民皆兵制度だった。この『義勇兵役法』の施行以前、沖縄ではすでに義勇兵役制度が実施されていた。沖縄戦はこの法律の可能性を試す、いわば実験場だったことになる。
では義勇兵とはなんであったか。陸軍省軍務局軍事課長・荒尾大佐はつぎのように述べている。
- 義勇戦闘隊は天皇御親率の軍隊である。
- 戦闘隊たる村長の一例をとれば、戦闘隊長としてとして行動もし、また最後まで村の行政もやる。すなわち軍隊の長であり、同時に村長の地位にあって、仕事をやるところに特長がある。
- 戦闘隊員として陸海軍大臣に隷属する軍隊としての身分……
- 義勇兵役に服することによって、懲罰、刑法、礼式、栄誉等、軍人として特殊の適用を受ける。
(昭和20年7月14日朝日新聞)
村長は戦闘隊長なのだ。正式に軍の戦闘序列に配置されているのだ。ならば、その命令は軍命令に決まっている。
さて荒尾大佐は言う。「沖縄が危機にたったとき、陸軍大臣が部内に対して訓示された」と前置きして、その内容を伝えているが、すこぶる興味深い。
「深く情宜と徳義とに生くべし」
「軍進まんと欲せば、まず民進むということが軍民一体の姿」
「軍進まんと欲せば、まず民進む」
これが沖縄で強制された「軍民一体」の姿だというのだ。「軍進まんと欲せば、まず民進む」とはどういう意味なのだろう。軍より先に民を進ませてどうするのか。これでは軍がが突撃する前に県民に突撃させよ、軍が玉砕する前に、まず民間人に玉砕させてしまえと言っているのと同じではないか。
「情宜と徳義」などというあいまいな訓辞で、陸軍大臣は何が言いたかったのだろう。沖縄現地軍に伝えられたというこの訓辞を、現地の部隊長たちはどのように受け取っただろうか。赤松隊長は米軍の保護下から脱出してきた中学生に、「日本の兵隊さんは捕虜になったらどうするのか」と責め立てて自殺させた。こういう部隊長は決戦を前に住民に何と訓辞しただろう。
このあとは私の想像です。
お前たち、女こどもに戦う力はなかろう。だが、わしは、降伏はゆるさんぞ。降伏する者は殺す。それは見てわかっているな。しかもだ。アメリカ軍に捕まったが最後、男は八つ裂き、女は慰み者にされてなぶり殺しなのだ。日本人ならば、いざ!という時にどうすべきか、口で言わなくても、そこは情をくめばわかるはずだ。これを「情宜」という。臣民の徳義として、生き恥をさらすのか、潔く悠久の大義に殉ずるのか。よくよく考えるように。我々は戦いぬいたあとは玉砕するつもりだ。軍が玉砕しようとするとき、民はどうするのだ。「軍進まんと欲せば、まず民進む」のである。これが軍民一体の姿なのである。いわんとするところ、分かっているな。……では、これより手榴弾を配る。