「核抑止力」は存在するのか

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非核三原則 法制化発言に指摘
*http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=925665&media_id=4

鳩山代表、非核三原則の見直し二転三転 党内
*http://www.asahi.com/politics/update/0810/TKY200908100308.html

民主党はブレちゃいけません。しっかり党内論議をして、核に頼らない安全保障政策を樹立してほしいものです。

自民党は「核抑止力」を信奉しているし、軍事力万能みたいな考えの議員が多いので、どうにもこうにも……

核抑止力は本当に存在するのか、核兵器を持てばより安全になるのか、その点を考察してみましょう。

■核の存在が核攻撃を抑止した事実があるのか

核を持たない国は核攻撃を受けやすく、核を持つ国は安全という経験則があるなら、核抑止力の存在が認められるかも知れません。

しかし最初の核戦争である広島・長崎を例外として、いまだ核兵器が戦争で使用されたことがありません。当然ながら、非核保有国ゆえに核攻撃を招いた事例もありません。ですから核抑止力の存在はいまだに証明されていない仮説に留まっています。

■核の存在が通常戦争を抑止した事実があるのか

核保有国は核を保有しているがゆえに通常攻撃を受けにくく、より安全になっているでしょうか。

いえ、核を持つ国自体、そんな効果を認めていません。ブッシュ政権時代の米軍は、敵の通常攻撃に対して核を使用する場合があることを認めていました(*注)。つまり核を保有していても通常攻撃を免れないことを知っているのです。

核を持たない国が核保有国に宣戦布告した例としては、アルゼンチンが英国に戦いを挑んだフォークランド(マルビナス)戦争があります。核保有国と非核保有国が戦い、核保有国の軍が攻撃を受けた例もいくつも存在します。朝鮮戦争、中印戦争、ベトナム戦争、ソ連のアフガン侵攻、などなど。

■核保有は安全保障戦略にどんな影響をもたらすのか

核を持っていても使わないと見られると、何の意味もありません。そこで核保有国は核使用を前提にして戦略をたてねばなりません。つまり核兵器を使うことをためらわないぞという構えを周辺国に示さねばなりません。また言葉だけでは駄目なので、攻撃体制に現実性・信憑性がなくてはなりません。

こういうことをすると、周辺国との間に必ず軍事的緊張関係が生じます。このことは朝鮮政府の核戦略とそれに対する日本の敏感な反応から明らかです。核は戦争の緊張を醸成するのです。

日本の場合で言えば、日本の核装備はどこの国よりも米国にとっての脅威ですから、米国と正面切って対決する覚悟がなければ、核装備などできるものではありません。米国と一戦交える覚悟なんて日本にあるはずがないので、できもしないことを声高に言うのは止めるべきです。

■核保有は国民の安全がないがしろに

また核保有国は常に核を実戦配備状態にキープしておかねばならず、大変大きな費用が必要です。それは必然的に国内向け予算が制限されることに繋がりますから、国民の生活安全保障がないがしろにされる危険を導きます。

■核保有国は非核保有国にとって脅威か

では非核保有国は核保有国の核の現実的脅威を受けているのでしょうか。

それをいうためには核保有国が核を保有する前より核を保有して以後の方がより侵略的になるという傾向を見いださねばなりませんが、そのような傾向は見いだせません。侵略的な国は核の保有の有無にかかわらず侵略的です。

非核保有国は核の脅しに金縛りになるかといえば、そういうこともありません。非核保有国が核保有国の侵略を撃退した例として、ベトナムが核保有国である米国と中国の侵略を撃退した例がありますし、アフガンゲリラはソ連軍を領土から追い出しました。

核兵器が近隣の非核保有国の現実的脅威になっているとの証明は、成功していません。日本が朝鮮の核に脅威を「感じている」のは事実ですが、そんな脅威が現実にあるのかといえば、ほとんどないと言う方が正しいでしょう。しかし核がある以上、脅威がゼロではありません。ありませんが、その脅威を対抗的核武装で取り除くことはできません。核の脅威には、対抗的軍拡ではない、別のアプローチが必要なのです。

■本当の抑止力とは何か

これまで核保有国が核を使用できなかった理由は、相手が核を持っているからではなく、また相手が核を持っていないからでもありません。

核保有国が核を使用できなかった理由は、核使用に反対する国際世論にありました。朝鮮とベトナムで核を使用できなかった理由は、まさにそこにあったことを、マクナマラやニクソンなど当事者が著書で告白しています。この、世論による圧力は今後も有効であろうと思われます。

ですから核を抑止するには、核武装という実効性のない方法ではなく、「核=悪」という価値観や核に対する拒絶意識、嫌悪、こういったものを広げていくのが実際的かつ有益でしょう。そのためには核戦争の実態を広く世界に普及するなど、これまで日本の反核運動がしてきたことを、より一層規模を大きくして続けていくのがよいと考えます。

■核はなくせないのか

核はなくせないとあらかじめ決めてかかるのは愚かです。そういうスタンスでは、核軍縮交渉すら困難にします。また朝鮮に核放棄を迫るにあたっての障害ともなります。

現実を見ましょう。核保有国だった南アフリカが核兵器を捨てました。英国でも核戦略の放棄が現実的な政治課題として議論されています。オバマ大統領が、ともかく悲観論を無視して前に踏み出そうと呼びかけています。

この流れをより加速する方向にこそ、本当の希望があるはずです。

*注:核先制使用の8つの想定事例

米『統合核作戦ドクトリン』最終案から
「各地の戦闘軍司令官は次のようなとき、大統領に核使用の承認を要請してよい」

  • 敵が大量破壊兵器を使用、または使用を企てているとき
  • 敵の生物兵器使用が差し迫り、核兵器ならそれを安全に破壊できるとき
  • 地下深くの敵の大量破壊兵器施設やそれを使う敵司令部を攻撃するとき
  • 圧倒的に強力な敵の通常戦力に対抗するとき
  • 米国に有利にすばやく戦争を終わらせようとするとき
  • 米軍の作戦を確実に成功させようとするとき
  • 敵を脅して大量破壊兵器使用を防ぐため米国の核使用の意図と能力を誇示するとき
  • 敵の代理人が大量破壊兵器を使うのに対抗するとき

(産経新聞2005/05/01)