改憲論の根拠を検証する(3)軍事面から見た「ソ連脅威論」のありえなさ

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昨日は「ソ連脅威論」の悪質さを戦略面から見た。今日は戦力の側面から「ソ連脅威論」のありえなさを見てみよう。

ソ連の脅威が過剰宣伝だったとなぜ言えるのか。

(この日記を読んでいる人には軍事や兵器について詳しくない人がたくさんいるので、できるだけわかりやすく書き換えました。ちょっと軍事オタクみたいな内容です。すみません。)

日本侵攻の立役者とされたのはソ連極東海軍に配属された「空母ミンスク」だった。ミンスクは日本では「軽空母」と報道された。右派メディアはもっと大胆に「空母ミンスク」と呼称していた。が、ミンスクは日本以外の各国では「航空巡洋艦」扱いの艦船だ。それはミンスクが空母とはとても名付けられない軍艦だったからだ。なぜならミンスクには、飛行機が滑走して飛び立てる滑走路がないのだ。平らな甲板があるにはあるが、ミンスクには米空母のような蒸気式カタパルトがないし、スキージャンプ型滑走路もない。これではとても飛べたものではない。

(さすがに日本でもこの頃はミンスクが諸外国から空母扱いされていなかったことを認めています。しかしミンスクを空母と称さないのはソ連の都合であったかのように、いまだに言っています。往生際の悪いことです。)

どうしてこんな作りになっているかと言えば、ミンスクはもともと滑走型戦闘機を載せるために作られたものではないからだ。垂直離着陸機とヘリコプターを搭載するための軍艦だったのだ。

ミンスクに積まれていた垂直離着陸機、Yak38フォージャーは、イラクで米軍が使っている垂直離着陸機ハリアーに較べて欠陥があった。ハリアーは滑走路がなくても垂直に飛び立つことができる。が、フル装備して垂直に上昇するにはとてつもないパワーが必要だ。そこで機体を軽くしなければならないのだが、すると積める装備が限られてくる。離陸の時しか使わない力のために、積みたい装備を削るのは合理的でない。そこでハリアーはフル装備の時は滑走離陸するように作られている。

ところがソ連のフォージャーは滑走して飛び上がることができず、垂直離陸しかできない。そのため速度不足、武装不足、航続距離不足という構造的限界があった。あとで滑走離陸できる改良型も作られたが、初期型以上に使い物にならなかった。このことは当時から西側軍事研究家から指摘されていたことだ。ミンスクにはこれが12機積まれているので、同時に運用できるのは10機以下になる。こんなものが何機かあったって、日本の防空戦力に対抗できるはずがなく、海峡突破や着上陸作戦支援などできるものではない。もちろん、ソ連もそのことは分かっていただろうから、ミンスクで日本を侵略しようなどと考えていたはずがない。

これは軍事専門家なら、誰でも知っていることだった。 航空機にちょっと詳しいファンでも、英文資料を読める人なら分かっていたと思う。だがそのような分析は日本のメディアに一度として登場したことがなかった。ただひたすら、何の根拠もない脅威がかまびすしく語られただけだった。今日の北朝鮮の脅威というのと、まったく同じことである。

結論。
80年代ソ連脅威論とはなんだったか。

  1. 米国が太平洋方面の戦略的優位を維持するために作り上げた幻だった。
  2. 米国が日本に対ソ戦争という実力以上の行動を期待し、そのために日米政府共同で大々的な情報操作を展開したものだった。
  3. 右派メディアがこれに迎合し、呼応して、間違った情報で日本国民を扇動したものだった。
  4. そして、日本国民がまんまとこれに乗せられた。

これが80年代ソ連脅威論の正体だったのだ。
明日からは「北朝鮮脅威論」について書きます(編集注)

*編集注1──北朝鮮の脅威(1)以下。

http://doro-project.net/archives/738