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ソマリアの海賊対策について国際海運業界の主要団体7団体(*1)が各国に送った公開書簡があります(*2)。ここに現在の海賊対策の弱点が明記されています。
- 取締の実力が不足している。
- 指揮統制が調整されていない。
- 海賊に対して取り得る措置が不明確である。
- 逮捕した犯罪者を裁き、処罰する司法機関がない。
そこで日本として取り得る措置はつぎのようなものと思われます。
■短期的対応
(1) 海上保安庁の巡視船を派遣する。
自衛隊に較べてその有利な点は、
- 新たな法整備が不必要
- 海外活動の実績がある
- 取締のための交流が海域周辺国との間ですでに実施されている
- 調査・連絡担当官が現地に派遣されている
- 「憲法上の制約があるので自衛隊は派遣できない」と国際社会に対して明確に発言すれば、特にアジア諸国に対して外交的に極めて有益
(2) 統一司令部をつくるべく各国に働きかけて調整する。
これは国連非常任理事国としての日本の役割です。これに反対する国民はいないと思います。統一司令部がなく情報が共有されていないのは大きな欠陥です。インド海軍が海賊母船と間違えて漁船を撃沈してしまったのもそれが原因だそうです。統一指揮のもとに各国の艦艇や航空機を効率的に配しておき、救難信号を受信すればどの国の船であれ直ちに駆けつけるシステムができれば、海賊を追っ払える確率が高まるでしょう。
(3) 国際法整備のための場を提供し専門家や事務官僚を派遣する。
現在判明しているところでは海賊の母船は約8隻だと見られています (*3)。これらの母船の所在をつかみ、取り締まれば被害が一挙に減るでしょう。母船をはじめとする海賊船を拿捕できるように各国軍隊や海上警察に授権するための法整備が必要です。EUはブリュッセルに海賊対策のための調整事務所を設置しましたが、国際法の整備に着手できていません。各国の権益や保障責任問題などがやっかいだからです。ならば日本が主導すればいい。国際会議を招集して日本が座長を務めれば、取りざたされている海自のEU艦隊への編入などという現実離れした議論を封じることができます。
(4) WFP(世界食糧計画)など国際機関の艦船を護衛する。
(2)と(3)ができない場合でも有効な対策です。日本が外国船を護衛することは憲法上できません。日本の船だけを護衛するというのも、船団を組めないのだから無理です。しかし自国船の警護を外国に任せて自分は何もしないのも非現実的です。ならば海上保安庁が国連関係の船を警護すればいい。そのメリットを列挙します。
- その部分はカナダが小規模にやっているだけで空白ですから、そこを日本が担えば国際的義務を果たすことになる
- 司法行動だし国連機関を守るのだから集団的自衛権に触れない
- 統一司令部に加わらなくてもよい
■中長期的対策 司法援助
(1) 効果をあげているマラッカ海峡の海賊対策に準じて、海上保安庁が沿岸国の海上警察を援助・教育することができます。国連の協力を仰ぐこともできるでしょう。
(2) 海賊被害が集中しているのはプントランド自治政府の沿岸です。自治政府には取締の意志があり、その組織づくりや財政援助を求めています。米国などはこれまでの行きがかりがあって積極的に動きにくいようですが、日本はそんな気遣いが不必要なので、自治政府を援助できると思います。
■まとめ
これらが実施できれば、護衛艦を派遣するだけよりずっと効果的です。要はやる気です。
あと海自のP3Cを派遣するという案が出ていますが、情報収集と監視の役割を果たすのならば出してもいいと思います。いまは固定翼機が少ないらしいので、これを4機程度派遣すれば護衛艦以上に役に立つでしょう。就役しないで油漬けにしている機体が10機程度あるはずなので、国内の運用計画に齟齬をきたしませんし、費用も少なくてすむし。ただし法律整備が必要だし、国民感情にも配慮がいります。
何が何でも自衛隊を出さねばならない理由などないので、焦る必要はありません。後先考えずに護衛艦を派遣するというのは一番安直な方法だと思います。
*1:国際海運会議所(ICS)、国際海運連盟(ISF)、ボルチック国際海運協議会(BIMCO)、国際乾貨物船主協会(Intercargo)、国際独立タンカー船主協会(Intertanko)、国際船舶管理者協会(InterManager)、及び国際運輸労働者連盟(ITF)
*2:書簡は、各国政府に対して、以下の3点を要請しています。
(1)各国は、十分な数の戦闘艦、軍用機及び監視機材をこの海域に配備すると共に、国連の授権の下で、その指揮統制を調整する。
(2)国連安保理決議第1816と1836は、海賊に対して取り得る措置と最終的な解決までの期間を明記した新たな決議によって、補強されるべきである。
(3)逮捕した犯罪者を裁き、処罰する司法機関を設置することも必要である。これに関連して、各国は、1988年の「海洋航行不法行為防止条約」(*4)の下における義務に留意して、法的措置に関する国内法を検証し、改正することが特に求められる。
*3:2隻が漁船、1隻がタグボート、数隻のダウ船、大型ヨットクルーザー1隻です。クルーザーはオーストラリアからフランスに向かう途中でハイジャックされたフランスの2本マストのヨット、Carre D’as IVです
*4:「海洋航行の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」(海洋航行不法行為防止条約)は、船舶の不法奪取、破壊等の海洋航行の安全に対する不法な行為の犯人又は容疑者が刑事手続を免れることのないよう、締約国に対し、裁判権を設定すること及びこのような行為を引渡犯罪とすることを義務付けた上で、犯人又は容疑者を関係国に引き渡すか、訴追のため事件を自国の当局に付託するかのいずれかを行うことを義務付けるものである。1988年にローマで作成され、1992年3月に発効した。日本は1998年4月に同条約に加入、同年7月に日本について発効した。(外務省HPより)
*http://www.mofa.go.jp/Mofaj/press/danwa/17/dga_1014.html