貨物船差押は、中国側に理がある

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<報道>
中国に貨物船返還求める 国交相「企業の萎縮、懸念」
朝日新聞デジタル 2014/4/22 10:46
*http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=168&from=diary&id=2853312

■これは戦時賠償の話ではない

これは戦時中に日本の会社が中国の会社から船を借りたのに、船を返さない、しかもレンタル料を踏み倒したから船と船賃を返せというものだ。

ただの民事訴訟だ。戦時賠償の話ではない。日本政府の出る幕ではない。うっかり口を出したら民事介入となる。

いや、もう口を出してしまったんだな。いまの政府はこういうオウンゴールが実に多い。

■日中関係の悪化とは無関係

第1回提訴は1970年。昭和47年だ。
日中国交正常化よりも以前の話だ。

中国の会社側(の遺族)は1度敗訴したあと、2回目に勝訴した。
2回目の提訴は1988年。昭和63年だ。
第一審で勝訴したのは2007年。
中国の最高裁で最終判断が下されたのは2011年1月17日。

商船三井側は和解で片付けようとしたが、相手側は応じなかった。
まあ、判決から3年たっても話がつかなければ差し押さえられるわな。

■どうしてここまでこじれたのか

中国側は、はじめ、話し合いで解決することを望んでいた。船の貸出料を支払わない、船も返さない、その代金も踏み倒し、要するに借りパチしたのは日本側だから、金を返せというのは当然のことだ。

しかし日本側がけんもほろろの対応だったのだと思う。中国側は東京簡易裁判所に調停を申し立てた。いきなり裁判ではなく、調停というところに、日本側の誠意をまだ信じている姿勢が見える。だが不調に終わった。金は返さない、船は沈んでしまったからもうない、代金を支払う必要はない。こういう態度だったようだ。

こういった日本側の態度を中国側は不誠実だと怒り、「行くところまで行ったろやないか」。こうなったのだと思われる。わからなくはない。

■70年以上前の話がなんで今頃?

それにしても78年も前のことだ、時効というものがないのか。
そこは、中国側についた弁護士が偉かった。

第1回目の提訴は「不法行為に基づく損害賠償請求」だった。「賃貸借契約にもとづいてチャーター代金を支払うべきなのに、支払わないのは不当だ」。こういう申し立てだ。これだと時効は長く見ても10年。1970年の時点では、すでに時効が完成していたので敗訴している。

そこで第2回目の弁護士は、「不法占有に基づく損害賠償請求」として申し立てた。日本側が船を使っていた、つまり占有していたのに、船を返さないし、代金を支払わないのは不当だという理屈だ。理屈としてはあっている。

では、「不法行為」と「不法占有」は、訴訟においてどう違うのか。

日本側が「船は軍に召し上げられたので、返せというなら軍に言え」と主張したのを逆手に取ったのだ。日本側が第三者である軍のせいにしたのが、負ける要因となった。占有者は軍だと言ったから、商船三井は占有当事者でなくなった。ここで、消滅時効を援用する資格を、自ら手放したことになる。

第三者による占有の権利を守るため、第三者の消滅時効も認めますよという規定が、日本民法の第166条2項。商船三井の言い分だと、消滅時効を援用できる当事者は第三者である日本軍だ。しかし日本軍はすでに存在しない。消滅時効の援用を主張できる者がいないことになり、すると時効は完成していないことになる…!

見事な切り返しだ。
まるで半沢直樹の「倍返し」みたいなものだ。

このあたり、商船三井も必死に法律を駆使しただろうが、相手の言い分に理があった。軍のせいにして責任逃れをしたツケを被ったのだ。まあ、自業自得である。

中国政府が時効規定を法律に取り込んだのが1987年。翌年1988年までに提訴しないと、一切の権利を失うという規定だった。そこで中国側遺族は1988年にあわてて提訴している。権利を失うギリギリのところだった。こういった面でも、中国政府とグルであるというのは事実誤認だ。

■日本側も被害者だ

中国の会社「中威輪船公司」から2隻の船を借りたのは、大同海運という会社。この船を、軍(大日本帝国政府)が召し上げた。徴用という。そのとき、軍は賃貸料を支払わなくてもよいと言ったそうだ。

さもあらんと思う。
「賃料を支払うってことは、敵に送金するということだ、ふざけるな、踏み倒せ」。

当時の日本軍なら言いそうだ。
現代日本だって北朝鮮への送金は敵を利することになるといって禁じてしまったんだから。

その船が2隻とも沈んでしまった。大同海運は軍に船を徴用されて、もうけがなくなり、 チャーター料も受け取っていない。船員は海の底に沈められ、帰ってこなかった。

そういう会社は多かった。戦後になって政府に損害賠償を求めたが、その時の政府の対応がひどい。

「戦時補償特別措置法」というのをつくった。
沈んだ船などの補償をしますよ、お金払いますよという法律だ。

そこに決めてあるのは、
請求しないと権利がなくなりますよ。
請求したら支払うけれど、そこに税率100%で税金かけますよ。

て、おい、どっちにしても一銭も戻らないってことじゃないかっ。
そうなんだけどね、まあ、戦争なんてのはこんなもんだ。
国なんて、信用しちゃいけませんや。

で、こういった歴史を知らないお人好しが「憲法を変えて戦える日本に」とか、
「中国と戦え」とかバカなことを叫んでいるわけで。

やれやれ、というお話。