田母神批判を強める自衛隊

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世間ではもう過ぎ去った事件なのかも知れませんが、自衛隊が田母神問題を事後処理するのはまさにこれからです。

自衛隊情報紙『朝雲新聞』が、田母神に厳しい論評を繰り返しています。しかも内容がだんだん本質に迫ってきました。自衛隊の隊内綱紀粛正の動きが本気である兆候かも知れません。

朝雲新聞
http://www.asagumo-news.com/
から記事2本転載します。

朝雲寸言(2008/11/20付)

「田母神論文問題」が尾を引きそうだ。国会での論点は主に「自衛隊の幹部が政府見解と異なる持論を公表することは文民統制に反する」、従って「懲戒手続きにかけなかったのはおかしい」というものだ。

前段については、政府、与党も認めているが、懲戒については「幕僚長を更迭して退職させたことで十分」とする政府と、懲戒処分にして退職金が出ないようにすべきだという野党が対立している。だが、この問題の本質は退職金の当否ではない。

五百旗頭防大校長は、文民統制すなわち国民への服従を誇りとするところに自衛隊の原点があると説く。また、他の論者は、今回の論文が正しいかどうかよりも賢いかどうかが問題だと言う。自衛隊は、社会を離れて存在し得ない。自衛隊のアイデンティティーを国民にどのように訴えるのかという観点から見て、田母神論文をどう評価するかが問われている。言い換えれば、田母神論文の真の問題は「歴史観や憲法を変えなければ自衛隊は戦えない」という主張が正しいかどうか、ということだ。

これこそ、歴史観の当否とは異なり、全自衛隊員が自らに問いかけるべき論点だ。自衛隊は永年にわたって、旧軍との決別を旗印にして国民の支持を得てきたが、それが間違いだったと言うなら、幹部は辞表を懐に世に訴えなければなるまい。問われているのは、個人の「言論の自由」ではなく、自衛隊のあるべき姿だ。

時の焦点 <国内>(2008/11/20付)
歴史認識も職務に関連
平木公二(政治評論家)問われる文民統制

誤認と偏見の歴史観を披露し、更迭されると、言論弾圧だと言い返す。文民統制(シビリアンコントロール)も理解できていない。この程度の人間を航空自衛隊のトップに起用していたのか。驚きを通り越し、情けなくなってくる。

政府見解と異なる歴史認識を含んだ論文を公表し、更迭された田母神俊雄・前航空幕僚長が11月11日、参院外交防衛委員会に参考人招致された。田母神氏は「我が国が侵略国家というのは濡れ衣だ」などとする自らの論文の内容を正当化することに終始した。

侵略戦争への反省を表明した村山談話と異なる見解を表明したことについても、「自衛官も言論の自由が認められているはずだ」などと反論した。田母神氏は委員会後、記者団に「村山談話の正体が今回分かった。言論弾圧の道具だ、あれは」とまで言い切った。

この「言論の自由」をはき違えた言辞に、今回の騒動の「本質」が隠れている。その本質とは何か。そしてこの問題をどう考えればいいのか。

文民統制の主体は国会や内閣であり、防衛相の人事権もその一環だ。田母神氏も彼の言動を支持する自衛隊員らも、おそらく「1978年に栗栖弘臣・統合幕僚会議議長が解任された際は、超法規的に自衛隊を動かすというオペレーションに言及したから文民統制の対象になったが、今回は独自の歴史認識を披露しただけだから、文民統制の対象に当たらない」と思っていたのだろう。

論文公表は事前に文書で報告する内規があるのに、田母神氏は委員会で「職務に関係していないので通知しなかった」と述べている。しかし、自衛隊のトップの歴史認識の開示は、自衛隊員の団結や鼓舞につながる以上、職務に関連している。今回の論文公表も内規、ひいては文民統制の対象になる。

空幕長の立場で「日本はルーズベルトの仕掛けた罠にはまり真珠湾攻撃を決行した」との史実に堪えない俗論を展開すれば、日米同盟に微妙な影響を与えかねない。「我が国は蒋介石により、日中戦争に引きずり込まれた」との曲解に満ちた主張は日中関係を損ねることにならないのか。

だからこそ、麻生首相は11日夜、田母神氏の言論統制批判について、記者団に「言論の自由は誰にでもある。ただ、文民統制の日本において、幕僚長という立場では不適切だ」と述べたのだ。

村山談話は、個人名を架しているが、閣議了解された政府見解だ。村山談話がけしからんから従わなくてもいいというのは、文民統制への挑戦にほかならない。村山談話の見直しは、これとは異なる文脈で進めるべき話だろう。仮に、近い将来、民主党政権下で村山談話が見直され、さらに左寄りの〇〇談話が閣議了解された場合も、自衛隊員はそれに従うことになる。文民統制の本質は政治による統制にあるのだから。

*編集注:朝雲新聞からの転載2件は改行位置が原文と異なる可能性があります。