中国政府の「反日」というものについて

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1169605675&owner_id=12631570

悪の民族性なんかあるのだろうか 極論日記 (2)

ものごとはパクリから始まる 極論日記(1) で、パクリは日本人のお家芸でもあったという日記を書きました。 中国が台頭する以前、コピー大国といえば日本のことだったんです。「何でもかでも欧米の文化を模倣して、日本の文化を高めようとみんな...

にコメントを下さったのりたまさんによれば、中国政府は信用できないそうです。

日本と異なり、一党独裁の中央集権国家ですから政治的な意図でありとあらゆることで、日本に対する憎しみを増幅し、保持し続けようとしている大きな問題ですから、相手に明らかな悪意・敵意があることを理解していれば、報道される事柄だけでも十分に判断のつく問題です。

文中、「ですから」で結んでありますが、「日本に対する憎しみを増幅し、保持し続けようとしている」理由が「一党独裁の中央集権国家ですから」というのは論理的に成り立ちません。この文脈はおそらくこういうことでしょう。

一党独裁の中央集権国家ですから、政治的な意図で日本に対する憎しみを増幅し、保持し続けようとすれば、そのとおりにできる政治システムです。

そういう政治システムであるのは同意見です。

しかし「そうできる」ということと、「そうしている」ということは全然ちがいます。日本の司法シスタムは警察がデッチ上げで犯人を仕立てる力(欠陥)をもったシステムですがすべての犯罪捜査がデッチ上げだと断定しては間違いですね。ある事件がデッチ上げだと言うためには、それを証明できる別の確かな論拠が必要です。

それと同じで、中国に反日的論調があるのは事実ですが、あらゆる政治行動が反日を目的としているとは断言できません。そうだというには、別の確かな論拠が必要です。

で、のりたまさんがそう判断する理由が例示されています。

1.四川の大地震により起きた多数の生き埋め被害者の救助のため、日本からもレスキュー隊が行ったが、意図的に、生存者がいないと思われる難しい場所ばかりに回されたので、一人も生存者を救出できていない。
「中国に無い最新の装備や技術のある、日本のレスキュー隊には難しい現場を担当してもらいたかった」というのは言い訳である。

日本のレスキュー隊が生存者発見困難なところに行かされたのは事実です。のりたまさんは中国側が悪意を持ってわざとそうしたのだと言いたいようです。しかしそう考える根拠が示されてありません。根拠なしに思いこむのを憶測といいます。

また、中国政府はのりたまさんの書くような「言い訳」をしたのでしょうか。私は知りません。「悪意の存在」も「言い訳」も、のりたまさんの憶測に過ぎません。

週刊新潮は別の理由を書いていました。

活動場所を決めたのは、胡錦濤国家主席だったと言われています。青川が選ばれた理由は、チベット族やチャン族といった少数民族が住む地域に近いから、という見方が大勢を占めている。背景には、チベット族による騒乱への対応で国際世論の批判を浴びたことがあります。有能な日本隊を少数民族の居住地域近くに派遣して、“少数民族を見捨てない”ということをアピールする狙いがあったのでしょう。活動場所選びからして、日本隊は“政治宣伝”に利用されたのです。

ここでも「言われている」「見方が大勢を占めている」「あったのでしょう」と推測が重ねられていますね。なのに最後の結論だけ「“政治宣伝”に利用されたのです」と断定されています。推測を重ねて断定に結びつけるのはイメージ操作としてよく使われる手法で、読み手は警戒しなければなりません。しかも、断定部分も個人の考えを採録しているにすぎず、新潮としてそれを事実であると書くのは避けています。ちょっといやらしい手法ですが、慎重であるとも言えますね。

まあともかく、新潮の分析した中国政府の「動機」は、「“少数民族を見捨てない”ということをアピールする狙い」だというのですから、のりたまさんと異なって「反日」というものではありません。

憶測ですから色んな見方が可能ですし、色んなことが言えます。しかししょせんは憶測ですから、これをもって中国政府が「日本に対する憎しみを増幅し、保持し続けようとしている」と断定するには無理があると思います。(私の見るところでは、「“少数民族を見捨てない”ということをアピールする狙い」という分析も当を得ているとは思えません。)

つぎにのりたまさんはこう書きます。

2.ア、日本のレスキュー隊員の活躍を報道した写真を、例の捏造だらけと言われる南京大虐殺記念館(正式名称 侵華日軍南京大屠殺遇難同胞紀念館)に展示しました。
イ、つまり、日本人による救助を報道するのに当たり、日本人を見直したりすることが無いように意図的に、その活躍を打ち消すように展示したわけです。

ア、は事実の提示で、イ、はその評価です。

調べたのですが、アの事実を確認できませんでした。なのでのりたまさんにはこのソースを教えていただきたいと思います。もしも事実でなければ、これはのりたまさんが中国に都合の悪そうな情報なら、よく調べないで鵜呑みにしてしまうタイプの人かも知れないことを示しており、中国政府に対する偏見を示すものかも知れません。すると中国政府が「日本に対する憎しみを増幅し、保持し続けようとしている」というのも偏見に由来する幻かも知れないのですから、のりたまさんの意見の信憑性がかなり薄まることになるわけです。

しかし仮にアが事実であったとしましょう。その場合にも「昔の大日本帝国の兵士はこんなひどいことをしたのだが、それは兵士個人が悪辣だったということではなく、当時の日本軍国主義が日本兵をそのようにし向けたのだ」という中国の公式見解を補強するためかも知れません。「現代の日本人はこのように我々を救いに来てくれる、善意にあふれた人々である」ということを言いたいが為の展示ですね。

この私の解釈は、推測です。のりたまさんの解釈も推測です。どちらも成り立つ推測ですから、一方だけが正しいと決めつけることはできません。どちらが正しいかは、展示されている写真説明を調べるなどしなければなりません。結論はその上でないと出せませんね。

ということで、2も中国政府が「日本に対する憎しみを増幅し、保持し続けようとしている」と断言するには根拠不足です。

3.もちろん、最近公開された南京の映画のような作品が、今も作られるということ自体が「反日教育」なのは、言うまでもないでしょう。

南京事件そのものは歴史的事実ですから、否定できませんね。

映画「南京!南京!」は虐殺に苦悩する日本兵が主人公の一人だそうです。日本兵を人間的に描いているということで中国国内からは反発の声もあるそうですが、そういう映画を中国政府は推薦しています。

また中国社会科学院の研究者が来日して虐殺犠牲者数30万人というのは政治的数字であると発表するなど、何が何でも30万人に固執し、30万人でなければ虐殺ではないなどと極論を唱えているのは日本の歴史修正主義者たちだけになりつつあります。

歴史研究としては仮説として、30万人という算定もあり得ます。それが過大であるという仮説もあり得ます(私はこの立場です)。とるべき正しい態度は、それが仮説であるという立場に留意しながら、実証的な研究を進めていくことです。「反日」などというステロタイプの立場に固執して対決する態度は、科学的でもなければ客観的でもないと私は考えます。

ということで、のりたまさんの以下の意見に私は同意できません。

これらの事柄は全て、ヘイトスピーチなどの何億倍もの効力を持っているのです。それなのに、そういう事実に目をつぶって信頼関係を構築できるのでしょうか? また、そのような人たちと信頼関係を構築しなければならないのでしょうか?

何億倍の効力などなく、それはのりたまさんの憶測に過ぎませんでした。ですから目をつぶるべき「事実」などなく、それは偏向した認識がもたらした幻かも知れないことになりました。それならば信頼関係構築についての疑問は、根拠がなくなります。

結論として、信頼関係構築のための努力はなしうるし、なすべきだと私は主張します。それを妨害するのがレイシズムであり、ヘイトスピーチです。

私は2ちゃんねるで語られていることに普段は無関心なのですが、この機会にのぞいてみました。そして驚き、あきれてしまいました。日本のレスキュー隊に感謝する書き込みが中国であふれたという記事についての反応です。

117 : 福田吉兆(東京都)[]:2008/05/16(金) 17:48:03.54 ID:YcRHElg40
3日立てば忘れたように反日だろ

118 : 父(兵庫県)[]:2008/05/16(金) 17:48:03.72 ID:klY1d2Jf0
三歩歩けば忘れてるだろ

119 : 貧乏ゆすり(東日本)[]:2008/05/16(金) 17:48:06.71 ID:Jr03X48i0
五輪が終わって中国内がガタガタになってきたら、また反日煽動しそう

120 : 大塚周夫(東京都)[sage]:2008/05/16(金) 17:48:19.12 ID:78bbOIdd0
ふざけんなバカが
そのうちまた攻め込んでやるよ

中国の行為が「反日」ならば、こういう意見はその千倍も「反中」であり、こんなことを堂々と書き込む人がたくさんいては、そりゃあ先方だって日本人を信用できないと考えるんじゃないかなあ。こんなことではいけませんよね。

最後に

どろさんは、とてもやさしくて知恵にあふれ、人を許す強さを持っていると思います(ホメ殺しじゃありません)。
中国人も私も、人間としてそこまでの高みに登りきれないのですよ。

過分のおほめで恐縮です。
しかし私などは人間として全然大したことないんです。
根拠もなく他人や他民族を嫌うことをしないように心がけているだけです。それはそんなに難しいことではありません。高みというほどのものではなく、偏見を捨てるだけでいいんですから。

誤解のないように付け加えますが、私は中国が日本に対して敵愾心を抱いていないとか、反日本感情がないなどとは言いません。どの地域であれ、隣同士はあまり仲が良くありません。反日政策をとっても仕方がない歴史もあります。

しかし隣同士で憎しみをつのらせている他の地域(インドとパキスタンとかトルコとギリシャとか、そういう例はたくさんあります)と比較すれば、日中関係はかなり健全で良好です。それなのに牽強付会の理屈でわざわざ波風を立てる必要などどこにもない。そのように私は考えています。