万引き犯のビデオ公開で考えた日本人の法治意識

万引き客の顔写真張り出しは問題か?
弁護士ドットコム 6月14日 21:20

大阪のある鮮魚店が実施している「万引き対策」が話題を呼んでいる。朝日新聞などによると、年間数十件の万引き被害に悩んでいたこの店では、万引き行為を見つけた場合、警察に通報する代わりにその人の顔写真を撮影し、店内に貼り出すという「自衛策」を行っているという。
(*記事全文は末尾)

来年の大河ドラマにちなんで「黒田勘兵衛」のことを調べていて得た副産物。やくざの指詰めの起こりは、かなり古そうだ。

秀吉の天下統一により、いくさがなくなると、いくさ場で日銭を稼いでいた荒くれ者たちが暴れ始めた。食いぶちを、いくさ場でやっていたような殺人、強盗、略奪、誘拐などの凶悪犯罪に求めたのだ。

こうした犯罪者は、流れ者ばかりではない。下級の武士(奉公人)がやっていたそうだ。「らっぱ」「すっぱ」「あらしこ」などと呼ばれていたそれら下級の武士は、安く雇われて戦場で暴れまわったのだが、報酬代わりに略奪や誘拐を公認されており、それで食っていた。

秀吉がそういった連中と雇用主である大名に宛てて、「乱暴停止令」を出している。

「奉公人は五人組、十人組をつくり、互いに監視して犯罪者を出さないようにせよ」
「組の嫌われ者は小指を切って追放せよ」
「武士を名乗っていても、主人のいない者は村から追放せよ」
「農業を営まず、手に職もない者は村から追放せよ」

五人組、十人組は棟梁の名を冠して、◯◯組と称した。◯◯組で不始末を起こしたら、半端者として指を詰めて追放された。いまのやくざと同じことだ。村からの追放を「所払い」という。やくざの除名を「所払い」というのは、これが起源なのだろう。

村を追放されたら、彼らはどこにも住めなくなり、放浪することになる。股旅者となるのだ。なるほどなあ。木枯らし紋次郎たちが旅をしているのには、そういう理由があったのか。

「指詰め」「追放」は秀吉が創案したのではなく、それ以前からの風習だったのを、あらためて法律に取り込んだのだろう。

スサノオが追放されるとき、髪と爪を抜かれたと『古事記』に書いてある。内部規範を乱した者に肉体的制裁を加えて追放するのが、古代以来の慣わしだったことがわかる。江戸時代、犯罪者に入れ墨をしたのも同じことだ。

万引き犯の顔写真を貼り出すと言うのは、一種の肉体的制裁であり、二度とその場所に戻れない追放刑の作用ももつ。

古代以来の野蛮な規範意識が、私たちの中にいまも生きていることを示しているようだ。だから、乱暴な方法だが、支持する人もいるだろう。

しかしいまは法治社会だ。犯罪に私的制裁を加えてはならない。法的措置に任せるべきなのだ。法治が整っていなかった昔と同じような意識でいてはならないと思う。

万引き客の「顔写真」を店内に貼り出し 「やりすぎ」ではないのか?
2013年6月14日 弁護士ドットコム

国内の「万引き犯」の認知件数は年間約13万5000件にもおよぶ(2012年・警察庁調べ)。「何としても被害を抑えたい」と、躍起になっている小売店が多数あることは想像に難くない。そんななか、大阪のある鮮魚店が実施している「万引き対策」が話題を呼んでいる。

朝日新聞などによると、年間数十件の万引き被害に悩んでいたこの店では、万引き行為を見つけた場合、警察に通報する代わりにその人の顔写真を撮影し、店内に貼り出すという「自衛策」を行っているという。

商品1点につき1万円の「罰金」を支払えば、撮影をまぬがれることができるようだが、店内には実際に「私は万引きしました」というカードを持たされた人の写真が貼ってある。さらに、万引きを発見したら徴収した罰金をそのまま渡すとして、一般客に「店への通報」も呼びかけているという。

店側としては窮余の一策のつもりかもしれないが、こういった行為は「私刑」ともいえ、プライバシーなどの観点から「やりすぎ」といえないか。日本の法律上、こういった「自衛策」は許されるのだろうか。中川彩子弁護士に聞いた。

●私的な制裁は「強要罪」や「名誉毀損罪」にあたる恐れも

「日本では、一般人が勝手に誰かを裁いて、『私刑』を押し付ける事はできません。法律の定める手続きによらなければ、誰も刑罰を受けないと決まっている。つまりは『国家が刑罰権を独占している』のです。

だから、犯罪が起こった場合は、警察に通報するなど国家に処分をゆだねるのが原則です。たとえ万引き犯であっても、お店が私的に制裁を加えるのは問題です」

具体的には、どんな問題があるのだろうか。

「たとえば、『私は万引きしました』というカードを持たせて写真を撮るのは、無理に従わせようとすると、強要罪(刑法223条)になる可能性があります。また、その写真を店内に張り出すのは、名誉棄損罪(刑法230条)とされるおそれがあります。

もし仮にお店側が『本人の承諾があった』と主張しても、これらの罪は成立する可能性があります。なぜなら、お店側の強要により、やむなく承諾せざるを得ない状況であったとすれば、『承諾は真意ではなかった』と判断されるからです」

逆に、店側の犯罪になってしまう可能性もあると?

「そうです。さらに、この『罰金』1万円も危ういといえます。被害がごく少額であっても一律に1万円を支払わせるとするならば、その請求の根拠が乏しいからです。不当な請求といえる場合もあるでしょう」

そうなると、店側としてできることは限られてくる。

「万引き被害はお店の死活問題にもなりかねないので、このような過激な防衛策をとるお店の立場も十分理解はできます。ただ、上記のような問題に加えて、誤認逮捕をしてしまう危険性もあります。やはり万引き犯への対応は、警察に任せるのが望ましいでしょう」

中川弁護士はこう締めくくった。

実は筆者も以前、万引きに間違われて呼び止められ、カバンの中までチェックされた経験がある。その時はすぐに誤解がとけ、店側の謝罪を受けて穏便に済ませたが、もし偶然カバンに他店で購入した商品が入っていたらどうだっただろうか……。そんな実体験に照らして考えても、やはり店が直接、人を裁くということ自体が、どだい無理なのではないかと思う。

(弁護士ドットコム トピックス編集部)
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