http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1880421043&owner_id=12631570
昨年3月18日、日本気象学会の新野宏理事長から会員向けに、あるメッセージが出された。
会員は原発事故について勝手にしゃべってはならぬ、という内容だった。
当学会の気象学・大気科学の関係者が不確実性を伴う情報を提供、あるいは不用意に一般に伝わりかねない手段で交換することは、徒に国の防災対策に関する情報等を混乱させることになりかねません。
防災対策の基本は、信頼できる単一の情報を提供し、その情報に基づいて行動することです。会員の皆様はこの点を念頭において適切に対応されるようにお願いしたいと思います。
これには当の会員から激しい反発が寄せられた。
理事長メッセージを批判するコメントが、日本気象学会のウェブサイトに多数公開されている。
http://www.metsoc.jp
「日本の科学史に残る汚点」との批判も、学会に投げかけられている。自分もそう思う。
その後、理事長は、
先の理事長メッセージを発信した3月18日においては、福島第一原発の事故は極めて危機的な事態に陥る危険性も否定できない状況でした。そのような状況において、もしも個人の研究者が、放射性物質の拡散を対象として開発されたわけではない通常の大気数値モデルで行った不確かな情報を公開したとすれば、万が一の緊急時に大きな社会的混乱を引き起こすことが懸念されました。多数の人命と財産が脅かされる危機的状況における防災情報については、防災・医療・交通運輸・通信などを総合的に判断し統括する組織が責任を持って一元化して発信し、それに基づいて行動することが防災の基本であることを認識していただきたいというのが先のメッセージの真意です。
http://www.metsoc.jp/others/News/MSJPresidentMessage110412.pdf
という補足説明を出している。
言いたいことは、わからなくはない。防災の基本は、とくに警報などは、複数の機関から違うものが出されると社会が混乱するので、担当機関が決められている。混乱のさなかに飛び回るデマを打ち消す必要もあるので、情報は一元的に発信することになっていて、これは正しいやり方と思う。
私などは政府か東電の圧力がかかったに違いないとおもいこんでいたが、会長は、担当機関が責任をもって警報を出してくれるはずだと本気で考え、外部から警報まがいのまぎらわしい情報を出すべきでないと、まったくの善意でメッセージを出したようだ。
ところが、現実には原子力防災の情報発信のしくみは、てんでなっていなかった。役所どうしが縦割りで、役割分担が決められていなかった。だからあちこちから脈絡のない情報が飛び出ていた。そもそも過酷事故は、想定さえされていなかったから、何のマニュアルもなかった。そんなお粗末な体制であるとは知らない会長は、とんだ勇み足で会員の口を閉じようとしたのだった。
今年3月5日、気象学会は、「原子力関連施設の事故発生時の放射性物質拡散への対策に関する提言」を出した。2度と失敗をしでかすまいという決意が、そこには込められているようだ。
「原子力関連施設の事故発生時の放射性物質拡散への対策に関する提言」
今回の事故では、最新の科学的知見に基づく放射性物質の監視・予測の技術が事故発生後の一般公衆の放射線防護対策に有効に生かされたとは言い難い。これは、事故発生時の放射線防護対策に関して、放射性物質の監視・予測の技術を有する政府系・学術系機関による各々の所掌や立場を超えた共同連携が不十分であったためである。日本気象学会も、今回の事故に関して、適切に対応できなかったことを真摯に反省するものである。
もちろん、反省は大事で、反省してしっかりとした体制をつくるのがよいに決まっているが、平時に作った体制がどんなに練られたものであっても、実際に事故にあうと、その能力の半分も発揮できないのが、これまでの人類史の教訓だ。混乱といえば戦争時の混乱が最たるものだろうが、東西の戦史を読むと、人間はどんなに準備していても、あわてるとまことにお粗末な失敗をしでかすものだというのがよくわかる。失敗はあるだろう。相田みつをではないが、人間だもの。
そこで問題は、取り返しのつく失敗か、取り返しのつかない失敗かということ。
原発事故はその規模が大きすぎて、とても人間組織に制御することはできないと思われる。事故を完全に防ぐこともできず、事故後の対応をコントロールもできず、被害が止めどもなく大きい。危機管理的に考えるならば、事故の要因をすっかり取り除いてしまうのが一番いいのだから、最大の安全策は原発をなくしてしまうことだろう。
しかし「原子力関連施設の事故発生時の放射性物質拡散への対策に関する提言」が正しく述べているとおり、
今回の事故により、脱原子力発電の議論が行われているが、仮に既存の原子力発電所の稼働が停止しても、直ちにすべての原子力関連施設が無くなるわけではない。今回の事故の教訓をもとに、使用済み核燃料の管理も含めて、万が一の原子力関連施設の事故発生時に備えた対策を真剣かつ早急に策定しておくことが必要である。
やれやれまったく、全部止めても安心できない原発というやつは、どこまで迷惑な代物なんだろう。
二度と事故などごめんだが、万が一のときには、気象学会さん、今度こそちゃんと動いてくださいよ。言論封殺なんか、二度としちゃ駄目だよ。