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韓国海軍の哨戒艦(コルベット)天安を撃沈したのは米国の原子力潜水艦で、しかも同士討ちの結果、原潜も沈んだというトンデモ説がまことしやかに流されています。ネトウヨのおもちゃにされる前に、そういう愚論はやめときましょうというのが、これから書く内容です。
これが元ネタ
韓国軍艦「天安」沈没の深層(田中宇)
http://www.tanakanews.com/100507korea.htm
<田中説>
天安艦の沈没後、潜水捜索の過程で、韓国海軍の特殊潜水隊(UDT、特殊戦旅団)のハン・ジュホ(韓主浩)准尉が潜水中に気を失った後に死亡するという、二次災害が起きている。KBSは、ハン准尉の死亡事故を取材するうちに、ハン准尉の慰霊祭が行われた場所が、艦尾が見つかった場所(第1ブイ)でも、艦首が見つかった場所(第2ブイ)でもなく、約6キロ離れた第1ブイと第2ブイの間に存在する、天安艦と関係のない「第3ブイ」であることを知った。
田中さんは第3ブイが怪しいといいます。
ここに原潜が沈んでいると言います。
しかし全然怪しくありません。
図を見てください。
*http://www.jajuminbo.net/imgdata/jajuminbo_net/201004/2010041053189202.gif
艦首が見つかった第2ブイは、艦尾が沈んでいた第1ブイの西南約6.4kmの地点です。動力システムがあって重い艦尾は沈没地点近くに沈み、比較的軽い艦首は潮に流されて西に移動したことがわかります。田中さんが疑問を呈している第3ブイは、第1ブイの西側約6km、第2ブイとの中間地点のやや北方です。この付近には破片が散乱しているはずですから、ここを潜水捜索するのが不審だという田中さんの意見が、むしろ不審ではないでしょうか。
ブイは第1~第3だけではなく、もっとあったと思われます。
田中さんの示す地図をみましょう。
田中さんは地図から第3ブイが消えているのは、隠されたのだといいます。たしかに第3ブイはないけれど、その代わり別に2カ所のブイが現れています。破片が発見されればブイが設けられ、回収が終われば必要なくなり撤去されたというだけのこと。地図をみると、韓国艦船が広く配置されて捜索に当たっているのがわかります。他にもたくさんのブイが設置されては撤去されたことでしょう。
<田中説>
米軍は捜索を急ぐあまり、潜水捜索に必要な減圧装置が現場に運び込まれるのを待たず、韓国の部隊を潜水捜索させた。潜水可能な時間が15分程度と短いのに、複雑な艦内を無理して捜索させた……
ハン准尉の慰霊祭が行われたのは、当然ながら天安艦ではなく、米潜水艦の沈没現場であり、慰霊祭には米国のスティーブンス駐韓国大使や在韓米軍のシャープ司令官も列席……
原子炉が破壊されているかも知れないのに、周辺海域を封鎖しない? 放射能調査もしない? 機密書類が積んである原潜に外国軍人を入れる? 絶対機密のはずの原潜沈没地点で慰霊祭? 核ミサイルの真上で? んな馬鹿な! あまりにも空想的で、その推論の幼稚さに吹き出しました。
<田中説>
天安艦の捜索と引き上げは民間の潜水会社に委託され、作業の指令塔は民間のバージ船に置かれたが、第3ブイの捜索は韓国軍の特殊潜水隊で、指令塔として韓国軍の最新の軽空母「独島」が駆り出された。
いったい何が言いたいのか、一瞬理解できませんでした。艦の引き上げは、(韓国軍に大型クレーンがないので)民間のサルベージ会社に依頼します。しかし捜索は軍が行います。当たり前のことです。東シナ海の工作船引き上げでもそうしました。現場海域の複数ポイントに、他にも多数の艦船が派遣され、捜索にあたっています。「独島」はそのうちの一隻であったにすぎません。
<田中説>
沈没した米潜水艦について、ヨントゥリム岩の前の海を拠点としてペンニョン島の周辺海域で潜航を続け、島の対岸にある北朝鮮の通信を傍受しつつ、有事の際に北朝鮮にミサイルを撃ち込める臨戦態勢をとっていたのではないかと分析している。
馬鹿馬鹿しいとしか言いようのない推測です。たかが通信傍受に、どうして原潜がそこまで行かなければならないのか。そういう施設は陸上に備えてあります。北朝鮮にミサイルを撃ち込むのに、どうして反撃を喰らいやすいところにまで侵入しなければならないのか。湾岸戦争、イラク戦争などで米軍がどこからトマホークを発射したのか、もう忘れてしまったようです。それともミサイルの射程を知らないのでしょうか。ともかく、原潜というものの使い方を分かっていない人だけが、平気でこういう推論を唱えることができるのです。
<田中説>
韓国軍の関係者はマスコミに対し、当初、ソナーで2キロ先の魚雷を感知できる確率は70%以上と言っていた。その後、現場の水深が30メートルと浅いので感知確率は50%未満だという話に引き下げられた。
水深30mのところに原潜は潜れません。
ついでに言うと、「北朝鮮の潜水艇による魚雷攻撃だというなら、どうして天安は敵の存在に気づかなかったのだ、不自然ではないか」という意見があるので、説明しておきます。
小型潜水艇の小さなモーター音は探知しにくいんです。まして現場は潮の流れが速く、水中は騒音が渦巻いています。しかも共和国海軍は無能の集団ではないので、潜水艇の静音性を高めるぐらいの工夫はします。戦闘中なら小型のモーター音でも拾えるぐらいに緊張して捜索するかも知れませんが、平時の天安にそこまでの探知能力を求めるのは困難でしょう。海底で待ち伏せしている相手を見つけるのは、だれであってもほとんど不可能です。
ここに陰謀論の入り込む余地はありません。
田中さんが北の攻撃ではないと考える理由は、まさに噴飯ものです。
<田中説>
交戦したのなら戦争中だ、その最前線に米国大使と軍司令官がのこのこ慰霊祭に行くだろうか……
北が継続的に攻撃を繰り返して戦争状態になったとでもいうならこのとおりでしょうが、そんな事態に至っていません。天安撃沈は突発的な出来事であって、これに加えて米国大使を攻撃でもしようものなら、本当の戦争になってしまいますから、いくらなんでもそんなことをするはずがありません。ですから、現場に米国大使が行ったのが「北朝鮮犯行説」への批判になるはずがありません。
田中さんの妄想は、いくつもの仮定の上にかろうじて成立します。潜水艦疑惑が否定されれば推論の根拠がなくなるので、もうこれ以上おつきあいする必要もないのですが、彼の論理がいかにデタラメであるかを知っていただくのにはよい材料となるので、確かめてみましょう。
>天安艦は、ペンニョン島の南の沖合を航行するはずが、予定より岸に近づいた。
(自分のストーリーの都合上、こうでもしないと交戦に至らないので作り上げた妄想です。)
>その結果、韓国軍に存在を知らされていない米潜水艦の存在を探知した。
(にもかかわらず、天安は艦隊司令部に打電もしていないんですね。)
>北朝鮮の潜水艦が潜入していると勘違いして発砲した。
(演習中の味方潜水艦かも知れないのに、ソナーでpingも打たない、司令部に発砲許可も求めない、そして攻撃されてもいないのに、警告もしないでいきなり! 田中さんはあまりにも妄想がすぎます。普通は、警告して浮上を求めるものです。)
>攻撃されたので米潜水艦も瞬時に撃ち返し、2隻とも沈没した。
(回避行動をとらず、いきなり反撃ですか。あり得ません。こんなことになるなら、危なくて米国潜水艦はうっかり同盟国の海底で訓練できませんね。)
さて天安が先に米国原潜に発砲したというのが田中さんの推測ですが、ここから派生して、天安がミサイルを撃ったので原潜が魚雷を撃ち返したと書いているブログもあります。このように誤情報が誤情報を生み、ますますとんでもない話にふくれあがります。
こんなことばかり言ってると、そのうちネトウヨにバカにされるので念のため追記しますが、天安は対潜ミサイルを装備していません。天安の装備は、62口径76mm単装砲2基、ハープーンSSM連装発射筒2基、70口径40mm連装機関砲2基、ミストラル短SAM単装発射機1基、Mk 32短魚雷3連装発射管2基、爆雷12発。対潜兵器は魚雷と爆雷です。
田中さんは「発砲」と書いていますが、言うまでもなく潜航中の潜水艦に機関砲を発砲するような馬鹿な艦長はおりません。
共和国海軍の仕業にしたくない動機はわかります。改憲・軍拡派が「北朝鮮の脅威」だとか「抑止力」だとかに利用するのが必至なので、それに対抗したいのだと思います。しかし事実とかけ離れた妄想には、反駁力がありません。
こういう馬鹿げた主張は、他のまともな主張の信用まで落とすことにつながります。緊張を高めるな、平和的解決を目指せという主張は正しいのですから、こんな陰謀論に依拠しなくても充分に説得力をもつはずです。
<参考>
韓国、「天安」沈没で北朝鮮の調査団派遣を受け入れず
*http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=1216496&media_id=97