http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1482971198&owner_id=12631570
村野瀬玲奈さんのところから
ジブチへの日本の「軍事進出」にみる日本政府の法意識の崩壊
2010/5/8アフリカ北東部にある、ソマリアに隣接する国、ジブチ(Djibouti)に、自衛隊の基地が日本側に一方的に有利な条件でつくられつつあるという報道に触れているブログのいくつかからメモします。
こういう事実は国民的議論に値する重大問題のはずです。しかし、自衛隊が海外に駐留基地を持つことが憲法上許されているのかという議論も全くなく、違憲かどうか問題になることもなく基地の準備だけが進行しているようです。日本には「法の支配」が存在しないことを示す事態のように思われます。この「日本軍基地」と、違憲かどうか気にせずに推進する日本政府と、それを報道しない多くのマスメディアへの批判を込めて、まずメモしておきます。この件ができるだけ多くの人に情報が伝わり、関心をひくことを願います。
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-1753.html
自衛隊の海外駐留にあたり、初の地位協定が結ばれたとの報道があるのですね。このことについて今日は考えてみます。
■これまでにもあった地位協定
じつは自衛隊に関する地位協定は今回が初めてではありません。最初の地位協定は2003年、クウェートとの間に結んでいます。
*http://www.47news.jp/CN/200312/CN2003122301002251.html
イラクでは多国籍軍がイラク政府と結んでいる地位協定を適用していました。
連合軍暫定当局(CPA)イラク地位協定
http://www.itoh.org/kagurazaka/lib/cpaorder17.htm
地位協定は国会承認がいらないということにされているので、私たちに情報が伝わりにくいんですよね。
■地位協定はどうして必要なのか
こういう協定は、排他的・治外法権的なものが含まれます。けれどもそうしておかなければ、日本国内で罪にならないような、たとえば飲酒とかポルノ雑誌の所持が重罪になる国があるので、危なくて滞在できないわけです。これは自衛隊に限ったことではなく、たとえば文民警察官など外交官特権で保護されていないすべての公務員とその雇用員について言えることです。
自衛隊は国内法についても適用除外規定をたくさん持っています。銃刀法、電波法、火薬取締法等や車両運送法、などなど。たとえば私は15歳で小銃を扱い、射撃訓練を受けましたが、これは少年自衛官だけに許された例外特権でした
こういうのは海外でも必要になってきますので、相手国の国内法の適用から除外されることを協定で取り決めておくのです。
■地位協定がなければどうなるのか
イラク派遣のときにはカタールにも航空自衛隊がいました。カタールに派遣された隊員は地位協定がないので半年間のビザで滞在していたのですが、更新手続きが間に合わず、いったんクウェートに出国して待機することもあったそうです。そこで日本とカタールは1994年に地位協定を結ぶことに合意したのですが、結局実現しませんでした。
それはカタールが外国軍隊の駐留を公式には認めていなかったからで、カタール政府は地位協定の内容を秘密扱いとし対外的に公表しないよう求めたそうです。しかし外務省が「内容を秘密扱いとした協定は過去に例がない」として拒否したので、締結交渉が決裂してしまいました。そこでビザの更新ができなかった空自隊員は1995年に帰国しています。
■ジブチとの協定は治外法権を認めているか
<ジブチ政府との地位協定>
8. 日本国の権限のある当局は、ジブチ共和国の領域内において、ジブチ共和国の権限のある当局と協力して、日本国の法令によって与えられたすべての刑事裁判権および懲戒上の権限をすべての要員について行使する権利を有する。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/pirate/pdfs/djibouti.pdf
これが日米地位協定以上に自衛官の治外法権を定めた条文だという論評が流されています。私はそうではないと思います。事実を確かめるために、日米地位協定と較べてみましょう。
<日米地位協定第17条>
1 この条の規定に従うことを条件として、
(a) 合衆国の軍当局は、合衆国の軍法に服するすべての者に対し、合衆国の法令により与えられたすべての刑事及び懲戒の裁判権を日本国において行使する権利を有する。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/pdfs/fulltext.pdf
ジブチと結んだ協定とほとんど同じです。イラクにいた自衛隊に適用されていた多国籍軍の地位協定は露骨でした。
<連合軍暫定当局(CPA)イラク地位協定>
第2条 連合軍および外国人連絡使節団人員
1)CPA、連合軍、外国人連絡使節団、その所有物、資金、財産は、イラクの法的手続きから免除される。
http://www.itoh.org/kagurazaka/lib/cpaorder17.htm
こういうのと違い、ジブチとの地位協定が定めているのは、日本側に専権的な裁判権があるというのではなく、日本側「にも」裁判権があるというにとどまります。相手国の裁判権を否定していません。つまり競合している。一方的な治外法権とも言えないと思います。しかし日米地位協定には問題があって、それは、例外規定があるからです。
<日米地位協定第17条>
3 裁判権を行使する権利が競合する場合には、次の規定が適用される。
(a) 合衆国の軍当局は、次の罪については、合衆国軍隊の構成員又は軍属に対して裁判権を行使する第一次の権利を有する
(ii) 公務執行中の作為又は不作為から生ずる罪
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/sfa/pdfs/fulltext.pdf
仕事中の犯罪行為は、米軍にしか裁けないのです(いまは重罪犯なら日本側に引き渡すことが、運用の変更で決められています)。こういう規定がジブチとの地位協定にあれば、完璧に問題です。でもそれはなく、この協定における自衛官の地位は通常の外交特権より低いところに留まっているようです。
■この協定には治外法権的運用の危険がある
けれどもです。つぎの規定をどう考えればよいのでしょうか。
<ジブチ政府との地位協定>
7 現地雇用職員は、いかなる特権又は免除も享有しない。もっとも、ジブチ共和国政府は、これらの職員に対して裁判権を行使するには、活動又は連絡事務所の任務の遂行を不当に妨げないような方法によるものとする。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/pirate/pdfs/djibouti.pdf
ジブチ当局の裁判権行使が「不当」であるかどうかをどうやって判断するか、それは書いてありませんが、一種の治外法権的な規定であるように思われます。現地雇用職員にしてこれですから、まして自衛官においてをや。たとえば交通裁判などは必ずと言って良いほど、双方の言い分に食い違いが生じます。事実としては自衛官が一方的に悪い場合も、本人はきっと言い逃れをします。この場合、部隊が自衛官をかばうケースはあり得るでしょう。悪いことをした自衛官を、ジブチ政府が検挙できない場合が予想されます。こういうことを認めてよいのでしょうか。
仮に駐日ジブチ軍の兵士にも同じ規定が定められているのならば、おあいこだともいえます。しかし、ジブチ政府の軍隊が日本に駐留することは、まず考えられません。憲法には、我が国は他国と対等関係にたつ旨書いてあります。この地位協定は、はたして対等関係を冒すものでないのか、どうなのか。やはり、いささか問題をはらむもののような気もします。
■海外派遣が元凶だ
この問題は、自衛隊が海外駐留を始めるときから防衛省が提起していました。海外派遣にはつきものの問題です。いったん海外派遣を認めてしまうと、隊員の身分や日本政府公務員としての地位を保全するために、必ず要請されることです。
これがなければ日本政府は公務員の一身上の権利を守ることができません。しかしながら地位協定を認めれば、つぎには任務遂行のためのROE(交戦規定。自衛隊は部隊行動基準という)を認めよとなりますし、現にソマリアでの武器使用については防衛省で内規が作られているようです。
一度こういう道筋がつけられると、現場は利便性を要求しますし、ことは自衛官の生命に関わることですから、求められれば認めようということになりがちです。正当防衛の基準もだんだんにゆるめられるでしょう。これでは他国の軍隊と何が違うのかということになります。しかしですね、もともと自衛隊は専守防衛が基本。こんな事態が起こることが変なのです。
私は海賊退治が不必要だとは思いませんが、海上保安庁を派遣しておけば特に問題にもならなかったのにと、改めて思います。ろくな国民的議論もなしに自公政府が既成事実を作ってしまったことで、将来的に大きな問題に発展しなければよいのですが。