「放射能を取り除くのは被害者の責任」 東電の凄まじい責任放棄

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どうにもこうにも、あきれ果てたものだ。

福島県のゴルフ場が、放射性物質で汚染された芝生を除染しろと東電に求めた。東電が応じないので、ゴルフ場は裁判に訴えた。

すると、東電は「放出した放射性物質は自分のものではない」と言い始めたのだ。もともと無主物(誰のものでもない物)みたいなものであるから、降り注いだそれを取り除くのは債権者の責任だというのだ。債権者とは、「相手に何かをせよと求める権利をもった人」のことだ。この場合は東電に「除染しろ」と要求している側のことをいう。

とんでもないことを言うものだ。

まあ、理屈としては、放射性物質の所有関係は争点になりうる。これまでの公害裁判では、公害物質の除去が争点ではなかった。たとえば水俣病裁判でも、日本チッソが出した無機水銀を取り除けと言う要求ではなく、求めたのはチッソのもたらした被害に対する損害賠償だった。もしも海中の有機水銀はチッソのものだから取り除けと求めていたら、裁判はちょっと微妙な判断になったかも知れない。そういう意味で、この原告の要求はこれまでにないもので、東電事故の深刻さや特殊性をよく表していると思う。

それにしても、である。こんな言い分が通るなら、公害企業は大喜びだろう。右翼も驚喜するだろう。耳がつぶれるほどの大音量で街宣車から軍歌を流しても、「音などはもともと無主物だから、うるさい、静かにしろと要求する側が防音すればいいのだ」と言える。オウムはサリン撒き放題ではあるまいか。

法理がどうたら以前に、人間として常識も良心もあったものではない。こんな会社がのうのうと存続していることに恐怖すら感じる。

だが、会社の思惑はともあれ、弁護人としては良心に背いてでも会社の立場を守るのが仕事だなんて考え違いをしている弁護士もいるので(橋下大阪市長がそれだった)、無主物についてそういう判例でもあって、何でもともかく使える判例は使おうということかなと思い、念のために調べてみた。

だがそんな判例はどこにも見つからなかった。そりゃそうだわな。何を考えて、どんな法律論に基づいてこんな答弁を書いたのか、自分の乏しい知識では、ちっとも分からない。企業法務を担当すると、弁護士はここまで劣化するのだろうか。じつに恐ろしい。

今回、裁判所は、東電のバカ答弁をまともに相手にしないで、それ以前の問題で東電に軍配を揚げた。そのジャッジもどうかと思う内容だが、高裁では是非とも「自分のひった屁はすでに自分のものではないから、臭くても責任なし」という前代未聞の恥さらし答弁を訴状に揚げて、その恥を満天下にさらしてほしい。

以下、報道資料をコピペする。

福島民報社
東電へ除染、賠償要求 東京地裁に仮処分申請 二本松のゴルフ場
2011.08.09 本紙 20頁 社会 (全463字)

東京電力福島第一原発事故で休業を余儀なくされたとして、二本松市の「サンフィールド二本松ゴルフ倶楽部」が八日、放射性物質の除去と、ゴルフ場などの運営維持に必要な経費の支払いを東京電力に求める仮処分を東京地裁に申し立てた。

代理人弁護士によると、請求額は、年末までにかかる人件費や借入金の返済費など計約八千七百万円。

文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会は五日、賠償範囲を示す中間指針を発表したが、このゴルフ場は避難区域外にあり、賠償対象になるかどうかが不透明として仮処分に踏み切った。今後は休業に伴う減収分などの損害賠償を求める本訴を起こす方針。

代理人によると、ゴルフ場は福島第一原発の西約四十五キロにあり、震災でコースののり面が崩落するなどの被害を受け補修をした。七月一日の営業再開を目指し、六月十七日に全十八ホールの放射線量を測定した結果、平均値が基準を超え、七月上旬に予定されていた「福島オープンゴルフ」予選会もキャンセルされ、休業しているという。

東電は「まだ書面が届いておらず、内容を把握できていない」としている。

毎日新聞社
東日本大震災:福島のゴルフ場、除染費支払い請求却下--東京地裁 
2011.11.15 中部朝刊 24頁 社会面 (全376字)

福島第1原発事故で、福島県二本松市のゴルフ場運営会社と敷地・施設所有会社が東京電力に対し、場内の除染と除染完了までの維持経費支払いを求めた仮処分申請で、東京地裁(福島政幸裁判長)が却下していたことが分かった。却下は10月31日付。2社は14日、高裁に即時抗告したことを明らかにした。

ゴルフ場は、第1原発の西北西約45キロにある「サンフィールド二本松ゴルフ倶楽部」。

却下決定は、除染は国や自治体が計画的に行うとの方針があるため東電に現時点で独自に行わせることは困難として請求を退けた。

維持経費についても、東電による賠償手続きなどを踏まえ、「さまざまな施策で(2社の)負担を回避できる可能性がある」として請求を認めなかった。地上1メートル地点の放射線量が毎時3・8マイクロシーベルトを下回る点にもふれ、「営業に支障はない」と付け加えた。【野口由紀】

【朝日新聞】
(プロメテウスの罠)無主物の責任:1 だれのものでもない
2011.11.24 東京朝刊 3頁 3総合 写図有 (全958字)

プロメテウスの罠(わな)

【プロメテウス】人類に火を与えたギリシャ神話の神族

放射能はだれのものか。この夏、それが裁判所で争われた。

8月、福島第一原発から約45キロ離れた二本松市の「サンフィールド二本松ゴルフ倶楽部」が東京電力に、汚染の除去を求めて仮処分を東京地裁に申し立てた。

――事故のあと、ゴルフコースからは毎時2~3マイクロシーベルトの高い放射線量が検出されるようになり、営業に障害がでている。責任者の東電が除染をすべきである。

対する東電は、こう主張した。

――原発から飛び散った放射性物質は東電の所有物ではない。したがって東電は除染に責任をもたない。

答弁書で東電は放射性物質を「もともと無主物であったと考えるのが実態に即している」としている。

無主物とは、ただよう霧や、海で泳ぐ魚のように、だれのものでもない、という意味だ。つまり、東電としては、飛び散った放射性物質を所有しているとは考えていない。したがって検出された放射性物質は責任者がいない、と主張する。

さらに答弁書は続ける。

「所有権を観念し得るとしても、既にその放射性物質はゴルフ場の土地に附合(ふごう)しているはずである。つまり、債務者(東電)が放射性物質を所有しているわけではない」

飛び散ってしまった放射性物質は、もう他人の土地にくっついたのだから、自分たちのものではない。そんな主張だ。

決定は10月31日に下された。裁判所は東電に除染を求めたゴルフ場の訴えを退けた。

ゴルフ場の代表取締役、山根勉(61)は、東電の「無主物」という言葉に腹がおさまらない。

「そんな理屈が世間で通りますか。無責任きわまりない。従業員は全員、耳を疑いました」

7月に開催予定だった「福島オープンゴルフ」の予選会もなくなってしまった。通常は年間3万人のお客でにぎわっているはずだった。地元の従業員17人全員も9月いっぱいで退職してもらった。

「東北地方でも3本の指に入るコースといわれているんです。本当に悔しい。除染さえしてもらえれば、いつでも営業できるのに」

東電は「個別の事案には回答できない」(広報部)と取材に応じていない。(前田基行)

【朝日新聞】
(プロメテウスの罠)無主物の責任:2 原爆の時よりひどい
2011.11.25 東京朝刊 3頁 3総合 写図有 (全908字)

原発から飛び散った放射性物質は「無主物」である――。

東京電力は仮処分の申し立てに対し、こう主張した。しかし、裁判所は「無主物であるかどうか」には立ち入らなかった。汚染の除去が焦点となった。

東電の裁判書面によるとこうだ。

「放射性物質を除去するとすれば、広大な敷地の土壌や芝をすべて掘り起こすという非常に大がかりな作業が必要となり、多額の費用を要することが想定される」

「それはもはや放射性物質と土地の分離とは言えないのではないか」

「このような作業を行うことができる立場にあるのは債権者(ゴルフ場)ではないかと思われる」

要するに放射性物質は、それがくっついた土地の持ち主が除去せよ、という主張だ。

これについて裁判所はいう。

「除染の方法や廃棄物の処理の具体的なあり方が確立していない現状で除染を命じると、国等の施策、法の規定、趣旨等に抵触するおそれがある」

「事故による損害、経済的な不利益は、国が立法を含めた施策を講じている」

つまり、除染も賠償も、国がいろいろな手立てを考えているのだから、それを待て、ということだ。

確かに、国による賠償の枠組みに基づき、東電はさまざまな補償への要求に対応を始めている。まずはこの枠組みに沿って、ゴルフ場も請求するように東電は求めている。

しかし、ゴルフ場側は、国や東電が対応してくれないから裁判所に訴えるしかなかったのだ。時間ばかりがかかる役所の処理に任せていたら、民間企業は倒産してしまう。

それにしても、である。

さいたま市の医師、肥田舜太郎(94)はいった。

「日本中除染するのは不可能だと国が判断したんじゃないでしょうか。原爆のときの日本政府以下の対応ですね」

肥田は自身が広島原爆の被爆者で、当時は軍医だった。

原爆が落とされた昭和20年8月6日、たまたま郊外の村にいて、直接の被爆はせずにすんだ。

直後から、村に逃げてきた被爆者の手当てをした。

人口2千人弱の村に、1万人を超す被爆者が流れ込んだ。みんな血だらけだった。うめき声や叫び声、すすり泣く声があちこちから聞こえた。(前田基行)