公文書に見る従軍慰安婦(2)

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国内では募集を拒否されることが多かったが、現地軍からは、「戦地での強姦事件を抑制するため、慰安婦を送れ」と言う要望が矢継ぎ早に届いていた。

北支派遣軍 昭和13年6月27日付 通牒

「強烈なる反日意識を激成せしめし原因は各所における日本軍人の強姦事件」
「実に予想外の深刻なる反日感情を醸成せるにありといふ」
「なるべく速やかに性的慰安の施設を整え・・・・云々」

現地からはせきたてられ、国内では地方が抵抗する。やむにやまれず、ここで内務省が乗り出すことになった。

内務省は全国の諸機関に対して「通達 支那渡航婦女の取扱に関する件」を出す。しぶる地方に協力を申しつける通達だった。「……実情にかんがみれば、やむを得ない」と、軍に膝を屈した内容だ。

ただし地方の反発に配慮して、いくつかの条件をつけている。

条件① 留守家族へ配慮すること。
条件② 婦女売買に関する国際条約の趣旨にそうこと。
条件③ 売春であることを本人が承知していること。
条件④ 満21歳以上で、親権者の同意があること。

どうして国内でこれほど反発が強かったのか。また上意下達が当たり前だった当時としては珍しく、政府側がその反発に配慮したのはなぜなのか。この現象には、背景がある。

予想外に戦争が長引いた結果として応召兵の妻の不倫が相次ぎ、新聞をにぎわし、社会問題となつていたのだ。

そこで留守家庭をあずかる女性に政府みずからが道徳を説き聞かせていたのだが、まさか不倫するなと宣伝するわけにもいかないので、「貞節な〈大和なでしこ〉になろう」、というキャンペーンが実施されていた。

こういう時期、戦地で男たちが好き放題に女を買っているというのでは、妻の不満が抑えられなくなるかも知れず、社会の風紀が保たれなくなるかも知れない。妻の不倫のうわさが戦地にまで聞こえたら、戦場の夫たちは戦争どころではなくなってしまう。

これは冗談ではなく、当時の政府は本当にこういう心配をしていたのだ。当時、性的秩序の維持は、今日では想像できないほどの緊要性をもっていたのだ。

こんな中、陸軍省も3月に北支、中支の派遣軍に対して通達を出している。

  • 「慰安婦募集は軍の威信を傷つけ、一般市民の誤解を招く。」
  • 「業者の募集方法が誘拐に類するものなので、警察の介入を招いている。」
  • 「業者をしっかり監督し、憲兵、警察と緊密に連絡をとれ。」

このように、軍は慰安婦募集が日本社会と摩擦をおこしているのを認識している。また、警察の介入事件がおきている事も知っている。そこで上部機関としては、募集方法に一定の配慮を見せねばならなかったのだ。

しかしこの後、戦火が拡大し動員が飛躍的に増えたことにより、慰安婦がますます足りなくなると、この「配慮」はなしくずし的に有名無実となっていった。