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浜田防衛大臣訓示
昨年来続く、一連の事故や不祥事により、防衛省・自衛隊に対する国民の信頼が大きく揺らぎ、防衛省・自衛隊への国民の信頼回復に全力で取り組んでいる中で、誠に遺憾ながら、今般、また新たにあってはならない事案が発生しました。
今般、田母神前航空幕僚長は、民間企業が実施した懸賞論文に応募し、「先の大戦をめぐる認識」について、政府見解と明らかに異なる見解や、憲法に関して不適切な部分がある論文を投稿しました。
平成7年8月15日のいわゆる村山談話において、「我が国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」と述べています。
麻生総理も10月2日の衆議院本会議において、「私の内閣においても引き継いでまいります」と述べておられます。田母神前航空幕僚長の論文は、明確にこの内容にそぐわないものです。
私としては、航空幕僚長という立場にある者が、このような論文を公表することは、航空幕僚長として相応しくない不適切なものであったと考え、速やかに航空幕僚長の職を解くとともに、田母神空将を退職させる措置を講じたものであります。
私は、自衛官が公に発言をするべきではないと考えているわけではありません。国防の第一線を担う諸官が、培った経験や専門的知見に基づき、我が国の安全保障をより良いものとすべく、シビリアンコントロールの原則に則った形で、きちんと意見を述べることは、必要なことであると考えています。
しかしながら、いかなる場合においても、自衛隊員である諸官、特に航空幕僚長のような幹部は、その立場を踏まえた適切な言動に心せねばなりません。隊員諸官それぞれが、自らの社会的立場に留意し、節度ある行動をとる、我々政治家は、そうした諸官の行動に最終的な責任を負う。我々と諸官との信頼関係に基づくシビリアンコントロールこそが、あるべき姿であると考えております。
自衛隊は国の安全を保つために存在する究極の実力組織であります。強力な装備を有し、訓練によって鍛えられた国内において比類無き実力を持つ組織です。この組織を運用し、任務を遂行するという重い責任を負う我々は、格別に自らを律するところ厳しくあらねばなりません。
我々の任務遂行に当たっては国民の信頼が必要不可欠であります。国民の信頼を得るためには、防衛省・自衛隊の職員、特に幹部たる職員が、歴史観を含めた様々な事柄についてバランスの取れた見解や、自らの行動がもたらす影響に対する冷静かつ慎重な判断力など、実力組織を扱うに相応しい資質を有していることが大前提となります。個人的な、そして必ずしも国民の多くが共有しているわけではない歴史観を公に述べるといった者が実力組織のリーダーにふさわしいといえるのか。私はそうは思いません。
何よりも、今回のような事案が続くと、これまで、災害派遣や国際協力活動等を通じて、諸官や諸官の先輩たちが長年にわたり着実に培ってきた自衛隊に対する国民の信頼が、根底から一気に崩れることにもつながりかねません。その点を隊員諸官一人一人が、改めて肝に銘じてほしいと思います。
今回の事案により、隊員諸官が動揺する必要は全くありません。私は、諸官一人一人が重要な任務の遂行に全力を捧げていると確信しています。隊員諸官においては、国防という崇高な任務のために服務の宣誓を行った時の、原点の気持ちに戻り、自らの社会的立場に留意しつつ、任務の遂行に務めることを希望します。
私としては、今回の件を受け、隊員の任命及び監督や、隊員の教育、隊員の部外への意見発表の際の手続き等について万全を期し、このようなことが再び起こることのないよう全力を尽くしてまいる所存です。
しかしながら、今回のような事案の再発防止は、最終的には諸官一人一人の自分の置かれている立場についての自覚と責任ある行動に拠らざるを得ません。今一度、この点を強調し、隊員諸官の日々の実践に期待するものであります。
いかなる状況においても、国の防衛は、国民にとって不可欠なものであり、一時としてゆるがせにはできません。防衛大臣着任時の訓示でも述べたとおり、私は、防衛省・自衛隊を預かる責任者として、諸官と共に、全身全霊を賭して職責を全うしてまいります。隊員諸官が、常に緊張感と使命感を持ち、日本国及び国民のためのみならず、世界平和のため、与えられた任務に全力を尽くすことを強く希望して、私の訓示と致します。