イージス艦衝突事故 無責任な発言だ

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2008年2月19日に海上自衛隊所属のイージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」とが衝突した。

■イージス艦に違反のオンパレード

「海上衝突予防法」に従えば、今回の事故の場合、進路を変えなければならなかったのは、漁船群を右舷に見ていた「あたご」です。(*末尾注1)

しかも「あたご」が衝突を避けるためにあえて直進したという言い訳も、法で明確に禁じられているのですから、漁船群の船首を横切ることになった「あたご」の直進行動は、何の弁解も許されない重大な違反行為なのです。(*末尾注2)

「イージス艦は大型船なので進路を変えにくい。そこで小回りの効く漁船が先に進路を変えるべきだ。」

こんな言い訳も間違いです。法律に“小さな船が先に進路を変えよ”という既定はありません。なぜでしようか。それはどちらが大きな船なのか、にわかに判別できない場合があるからです。

たまたま今回は漁船とイージス艦ですから大きさの差は歴然としています。が、それでは大きさがどの程度に違えば、小さな船に回避義務を課すことにするのでしょう。そんな細かな既定を作ったら、ボーダーラインのケースで危険が生じます。ですから法律は船の大きさとは無関係に、相手の船を右舷に見る方がいち早く回避行動を取るように求めています。(*末尾注3)

そして大事なことは、回避が義務づけられていない側の船(今回なら漁船側)は、勝手に進路を変えてはならないのです。思い思いに進路を変えて、かえって危険だからですね。ですから漁船は衝突直前まで法律通りに直進しています。それが正しい行動なのです。(*末尾注4)

しかし法律を守っていたから正しいとは言っても、こりゃあかんと思ったらよけるべきだと思うのですが、その点はどうなのでしょう。

法律は「よけるべきだ」とは書いていません。「よけても良い」という書き方になっています。それはなぜか。だってこちらが避けたつもりなのに、同時に向こうも同じことを考えていたらどうなるでしょうか。勝手な思いこみがむしろ危ない場合もあるんです。だから法律はギリギリになってから回避行動することも「できる」としているだけで、回避行動を義務づけていないのです。(*末尾注5)

しかしどんどん近づくのに、進路を変えるべき「あたご」が直進したので、本当に衝突の危険が迫りました。そこで漁船は、やむなく進路を変えるしかありませんでした。漁船は「避けることができる」既定に従って、右に面舵を切っています。けれども回避が間に合わずに衝突しました。

どうして左に取り舵を取らなかったのでしょう。それは、この行動が法律で決められているからです。原則として面舵しか切ってはいけないのです。ここでも漁船は法を忠実に守っていることが分かります。(*末尾注6)

面舵をきったものの、それだけでは衝突が回避できない場合は、衝突を避けるために必要な最善の協力動作をとらなければならないという既定がつぎに書かれています。僚船の金平丸は一旦は面舵を切りましたが、それでは危険が避けられないと判断し、急遽取り舵をとってUターンしたことで、かろうじて衝突を避けることができました。しかし不幸なことに、清徳丸は間に合わなかったのです。(*末尾注7)

どうして清徳丸は間に合わなかったのでしょうか。不注意だったからでしょうか。違います。並行進路を取る船がいる場合、先頭の船は後続の安全のために、むやみに進路を変えてはいけないのです。そして不幸にも清徳丸は先頭を走っていたのです。清福丸は僚船の安全のために直進を続け、おそらく金平丸の回避行動を確かめてから舵を切ったのです。それで間に合わなくなって衝突してしまいました。

このように漁船側は最初から最後まで「海上衝突予防法」に忠実に従って行動しています。「あたご」が同じように遵法精神を持っていれば、こんな事故は起こり得なかったのです。今回のは、ほとんど100パーセント、漁船が正しく行動しており、「あたご」の行動は信じられないほどに違反のオンパレードです。

これはもう、危険海域を航行する資格なしと判断せざるを得ません。艦長はじめ士官は降格させ、全部隊に海上法の基礎からみっちりたたきこむべきです。示しをつけるため、防衛大臣の更迭も断行しなければなりません。

どうしてここまで海上自衛隊の航法レベルがおちたのか、じつにゆゆしきことだと思います。
徹底的に膿を洗い出さねばならないでしょう。

「あたご」のミスを順序だてて述べればこうなります。

1.艦長のスケジュールミス
漁船が出漁する払暁時に、混雑する現場内に入る航行計画をたてた。

2.当直士官の判断ミス
混雑している現場海域で、しかも漁船に気付きながら自動操縦を続けた。

3.見張り要員の申し送りミス

4.レーダー要員と見張り要員の注意ミス
漁船の発見が遅れ、しかも2隻の漁船を1隻と誤認した。

5.当直士官の操船ミス
減速・回避しないで最後まで直進を続けた。

これはもう、どうにも弁護などしようのない事態ですよね~。
色んな話を聞くにつけ、ますますあきれ果ててしまうばかりですよ

*末尾注1:2隻の動力船が互いに進路を横切る場合において衝突するおそれがあるときは、他の動力船を右げん側に見る動力船は、当該他の動力船の進路を避けなければならない。

*末尾注2:この場合において、他の動力船の進路を避けなければならない動力船は、やむを得ない場合を除き、当該他の動力船の船首方向を横切つてはならない。

*末尾注3:第16条 避航船 この法律の規定により他の船舶の進路を避けなければならない船舶(次条において「避航船」という。)は、当該他の船舶から十分に遠ざかるため、できる限り早期に、かつ、大幅に動作をとらなければならない。

*末尾注4:第17条 保持船 この法律の規定により2隻の船舶のうち1隻の船舶が他の船舶の進路を避けなければならない場合は、当該他の船舶は、その針路及び速力を保たなければならない。

*末尾注5:前項の規定により針路及び速力を保たなければならない船舶(以下この条において「保持船」という。)は、避航船がこの法律の規定に基づく適切な動作をとつていないことが明らかになつた場合は、同項の規定にかかわらず、直ちに避航船との衝突を避けるための動作をとることができる。

*末尾注6::この場合において、これらの船舶について第15条第1項の規定の適用があるときは、保持船は、やむを得ない場合を除き、針路を左に転じてはならない。

*末尾注7:保持船は、避航船と間近に接近したため、当該避航船の動作のみでは避航船との衝突を避けることができないと認める場合は、第1項の規定にかかわらず、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなければならない。

■自民・大前議員(元防衛政務次官)の無責任発言

「漁船側に重大過失」自民・大前議員、地元会合で発言
朝日新聞 2008/3/9 19:44
http://www.asahi.com/special/080219/OSK200803090026.html

海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船清徳丸の衝突事故をめぐり、自民党の大前繁雄衆院議員(兵庫7区)が、神戸市内で8日にあった党兵庫県連の会合で、「漁船側に重大な過失がある」などと発言していたことがわかった。大前議員は「公正な調べによる原因究明を求め、事故の再発防止を訴える趣旨だったが、軽率だった」と話している。

大前議員は県連総務会のあいさつで事故に触れ、「双方に過失があったはずで、公正な立場から原因究明にあたるべきだ」とし、漁船側に「重大な過失があるが、そのことには一言も触れられていない」と述べたという。

さらに再発防止の重要性を訴える中で「ライフジャケットをつけていれば浮いてくるはずで、大規模な捜索活動はいらなかった。(地元漁協関係者が捜索の際に)これみよがしにライフジャケットを身につけていた」とも話したという。

大前議員は朝日新聞の取材に「捜査が終わっていない段階で(清徳丸側に)重大な過失がある、と断定したような印象を与える発言は軽率だった。『これみよがしに』などの表現は行き過ぎだったと思う」と話した。

大前議員は安倍内閣で防衛政務官を務めた。

ひいきの引き倒しとはこの事です。沈められた漁船側が回避行動を取っていることぐらい、報道を見ていれば分かるだろうに。

ろくに調べもしないで、根拠もなく漁船側に落ち度があったなどと、よく言えたものです。大前議員は発言を取り消し、乗組員家族に謝罪するべきです。大前議員は「新しい歴史教科書をつくる会」の会員だそうですね。

やれやれ・・・