中国人民解放軍がHPを開設した

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1269242262&owner_id=12631570

中国人民解放軍がウェブサイトを開設したというので、のぞいてみました。

中華人民共和国国防部
http://www.mod.gov.cn/big5/

なかなか充実していて面白い。簡体字はさっぱり読めないけど、台湾向けなのか繁字体が用意してあるので、有り難い。やはり英語より漢文の方が10倍はわかる(編集中:英語も用意されています)

軍服のきれいなおねえさんがキャスターの「軍事報道」というCATVの映像もあります。

中国軍のことだけでなく、「外軍知識」というのがあって、米軍やネパールや韓国、イタリアなど外国軍の紹介コーナーもあります。なぜか日本の自衛隊は載っていません。

その代わり「日本軍事思想」というのがありました。「1890年に山県有朋が提唱した「主権線」と「利益線」という認識が、その後の日本の国家戦略となり、大陸政策はこれに依拠した」と書いてあるなど、なかなかよく見ているなと感心しました。(*注1)

ところでネットでは「人民解放軍は政府軍ではなく共産党の軍である。国務省国防部は人民解放軍の指揮権を持っていない。」というのが常識です。

ウィキでもこう書かれています。

中国人民解放軍は、中国共産党中央軍事委員会(主席:胡錦濤)の指揮下にある中国共産党の軍事部門。即ち党軍であり、建前上、国家の軍隊(国軍)とは定義されない。

私もよく知らないまま、それが正しいのだと信じていました。しかしそれはどうやら間違いのようです。くだんのHPには軍関係の法律コーナーも備えてあり、人民解放軍の法的根拠が分かるようになっていました。
http://www.mod.gov.cn/policy/policy.htm

それによれば中国人民解放軍は「国家の常備軍」であると規定されています。(*注2)

指揮権を握るのは全国人民代表会議(国会)の中央軍事委員会です。軍の体制や編成、装備も中央軍事委員会が決定します。軍は政府機関である国務省国防部の指揮下になく、議会の指揮を受けるのです。

政府の指揮を受けるのが政府軍ですが、中国軍は「議会」の指揮を受けるのです。政府軍ではなくて、人民(議会)の軍なのです。だから「人民解放軍」というのですね。そして中国の最高の国権は人民代表会議が持っているのですから、その指揮を受ける中国軍はやはり「国家の軍」なのです。

ではどうして中国は軍の指揮権を政府に与えないで議会が握っているのか。

中国は「政府とは国民を抑圧する暴力装置である」というマルクス主義思想を受け入れているからでしょう。暴力装置である軍の指揮権を政府から奪い、人民の代表である議会が直接軍を掌握するというシステムをとるのが、より民主的だという考えなのだと思います。
面白いものですね。

国務省国防部に指揮権がないことを以て、人民解放軍は国家の軍ではないというのは、こういう特色を無視した言い分だと思います。

共産党との関係は「中国人民解放軍紀律條令」に定めてありました。(*注3)

軍紀の基本のところに、軍紀は中国共産党の路線、方針、政策を執行するとあります。つまり軍の規律については共産党の思想に基づくのだと。読みようによっては「共産党の政策を実行するのが最高の軍紀である」ともとれるのですが、これはまあ中国がそういう国だからねえ。(*注4)

軍に限らず行政機関のあり方は国により様々です。その特色を無視して、中国が妙ちきりんな国であるかのように言い立てる言説に、自分も惑わされていたことを反省します。

*注1
「1890年、首相山縣有朋把日本本國疆域稱作“主權線”、把朝鮮和中國稱作“利益線”。以此為理論依據的大陸政策成為當時日本國家戰略的核心。」

http://www.mod.gov.cn/big5/hist/2009-07/27/content_4008151.htm

*注2
中華人民共和國國防法

第二章 國家機構的國防職權
第十三條 中央軍事委員會領導全國武裝力量,行使下列職權︰
(一)統一指揮全國武裝力量;
(六)決定中國人民解放軍的體制和編制,規定總部以及軍區、軍兵種和其他軍區級單位的任務和職責

第三章 武裝力量
第十八條 中華人民共和國的武裝力量必須遵守憲法和法律,堅持依法治軍。
第二十二條
中國人民解放軍現役部隊是國家的常備軍

*注3:
中國人民解放軍紀律條令
第三條 中國人民解放軍紀律的基本內
(一)執行中國共產黨的路線、方針、政策
(二)遵守國家的憲法、法律、法規

*注4:
議会の中央軍事委員会は共産党の中央軍事委員会のメンバー(共産党員)と同じメンバーなのだから、中国人民解放軍は「党の軍隊」だ、という意見があるので付言します。

そういう解釈は、日本の安全保障会議メンバーは自民党国防部会のメンバーと同一だから、自衛隊は自民党の軍だというようなものです。

日本の安全保障会議は、内閣総理大臣と国務大臣により構成されます。議員内閣制である日本では、安全保障会議メンバーは自民党国防部会のメンバーと同一ですが、このことに何の不思議もありません。またこれをもって自衛隊は自民党の私兵だとは言えません。